りんご飴を食べさせたのは

秘密を共有したかったからなのかも知れない。



「あまーい!」



嬉しそうにぺろぺろ舐めている姿を眺めて目を細める。



「うまい?」

「うん!うまい」

「りんごの味、する?」

「りんご?うーんとね」



ぺろっと舐めてから、考える。



「あ、するする!りんごの味する!」

「本当かよ」

「りんご飴だもん、りんごの味するよ~」

「りんごにべっこう飴かけただけだろ」

「だからりんごの香りするよ」

「香りじゃん。味じゃないじゃん」

「香りも味も同じだもん」



甘くて爽やかなりんごは
まだ完全に熟れる前の、危うい香り。

まだあどけないのに
ふと見せる瞳が妙に大人びている君に似ている。



正直、会話は何だっていい。

知ること全てが新しいから。


好きな食べ物、音楽、映画、
どんな風に日々を過ごしているのか。


聞きたいことはたくさんあるのに
もどかしいほど時間が足りない。




「なぁ」

「ん?」

「また、会えるかな?」



聞けば、夜空からちらりと視線を移す。



「うん、もちろん!また来年会おうよ!」



来年、…か。



俺は来年までなんて待てないけど。



「俺さ、」



このままだったら
来年まで会えなくなるんだよな。

発した何気ない一言に、急に切なくなって



「お前のこと、好きだよ」



すっかり暗くなった夜空を染め上げる花火を見ながら、ぽつりと口にしていた。



ドドーンと腹に響く低音が沈黙を埋めて
視界いっぱいに金色の光の粒が溢れる。


夜空を染める花火と
薄暗い場所に二人きり。


この非日常な雰囲気に酔わされているのか
それとも無邪気な笑顔に惑わされているのか。



「俺もしょおくんのこと、大好きだよ!」



屈託ない言葉と
花火に負けない華やかな笑顔。



嬉しいよ。

嬉しいけども!



「……」



お前の好きと俺の好きは違うんだろうなぁ。

なんとも言えない気分で潤をじっと見つめる。



「ん?しょおくん、なに?」

「なんでもない」

「ひと口、食べる?」



やっぱり。
全然伝わってないらしい。


って、無理ないか。

今日初めて会った男に告白されてるなんて、思っていないんだろうし。



「はい、あーん」



りんご飴を差し出すから、その手を取った。



目の前のりんご飴を横によけて

顔を近づけて



きょとんとしている君に

そっとキスをする。





柔らかい感触と

甘酸っぱい爽やかな香り。



「ほんとだ、りんごの香りする」



唇が離れても、潤は大きな目をぱちくりさせて、静止画のように止まっていた。



「潤?」

「あ、あの…」

「また会いたい。今度は二人で」

「えっと…」



戸惑っている。



「ダメかな?」

「……」



所在なく泳いでいた視線がぶつかって
はっと気づいたように目を伏せる。



沈黙。



こんな時に限って

さっきまでうるさいくらいだった蝉の声も、花火の音も急に黙ってしまって、ただ気まずさだけが辺りに漂った。




「…ごめん、潤」



りんご飴を持つ手を離す。



「少し焦りすぎたかな。ごめん、忘れて」

「……」

「そろそろ、みんなのところ戻ろうか」

「あの、しょおくん」

「ん?」


「俺も…また会いたい」



顔を上げた君は

やっぱり瞳がキラキラしてて


それは花火のせいなのか

それとも…



「ほんとに?」



聞くと、少し恥ずかしそうに、こくんと頷いた。



少しは自惚れてもいいのかな。


俺の気持ちを表すように
空には特大の花火が上がる。



「俺、お前のことが好きだよ」



さっきと同じセリフだったけど

君の反応は、まるで違くて



「う、うん…」



また恥ずかしそうに目をそらすのが可愛いくて




そっと頬に触れれば


潤みがちな瞳と目が合って



優しく二度目のキスをした。






















♡おしまい♡

ウラ嵐シークレットトークで
潤ちゃんが「花火」好きって言ってたので
翔潤で書いてみました♡

隅田川花火大会の予定日だった今日に♡