ヒューーーーーッ




背後の高いところから甲高い音がして振り返ると、探すともなく目に入る。



「あ」

「あ」



声を上げたのはほとんど同時だった。



金色に光る筋がクレヨンで線を描くようにゆるゆると昇っていって

大きな音を響かせるのと同時に


まだ薄明かりの残る夜空を色鮮やかに照らした。



「うわぁ~!」



1つ目の花火が上がったのを皮切りに、次々と光が天を目指して上がっていき、空で花開く。



「綺麗…」

「ほんと」

「ん?しょおくん、ちゃんと花火見てる?」



大きな瞳の中で輝いている花火を見つけてしまい、つい見とれて相槌をうったら突っ込まれた。



「てゆーか、お前はちゃんと前見て歩けよ」



苦し紛れに話題を逸らす。



「だって、花火見たいじゃん」



出店が立ち並ぶ河川敷はたくさんの人が往来している上に、砂利道で足元が悪い。

なのに空を見上げてフラフラ歩いているから危なっかしくてしょうがない。



「ったく、ほら」



どさくさに紛れて手を繋ぐ。



「周りにぶつかるなよ」

「やったぁ、これなら花火見ながら歩ける~」

「おれがこのまま川につっこんだらどうすんだ」

「あはは、危なくなったら手を離すもん」

「ぜってー離さねーし」



無邪気に喜んでいる君を横目に

だけど俺は内心ドキドキしていた。










君と出会ったのは、およそ二時間前。


毎年夏休みになると、田舎のばあちゃんちに帰省するのが恒例で、今年の予定は3泊4日。

今日が3日目なので、明日が帰る日だ。

ばあちゃん家には同い年のいとこのカズがいて、友達数人と花火に行くというのでそこに加わったら、その中に潤がいた。



潤はカズの部活の後輩。


白くて小さくて、目がウルウル大きくて、やけに人懐っこいくせにどこか頼りなくて

つまり、とにかく可愛い。


「しょおくんってカッコいいね!俺、潤っていうの。よろしく」


ぱあっと笑った顔があどけなくて
その瞬間から、気になる存在になった。



毎年花火の時に学生のたまり場になっている公園の滑り台をみんなで陣取って、買ってきたものを食べようとした時

「あっソース忘れた!さっきのお店に取りに行ってくるね」

「じゃあ、俺も行くよ」

出店の方に行こうとしたから、とっさに同行した。



二人手を繋いで、さっきの屋台を目指して河川敷を歩く。

潤はまだ上を見上げている。



「花火始まっちゃったね、ごめんね」

「いいよ別に。ここからでも見れるし」

「みんなもうカンパイしてるかなぁ」

「してるんじゃない?」

「しょおくんも、コロッケはソース派?」

「まぁな」

「ポテサラにソースも美味しいよね」

「そうなの?やったことない。今度やってみるわ」

「うん、オススメだよ~」



ちなみに俺はソースだろうがケチャップだろうがタルタルだろうが、なんならステーキソースだったとしても、口に入れば何でもいい派なんだけど、それはこの際黙っておくことにした。




「あ…」



ふと、君が呟いた。

目線の先には、赤い暖簾に「りんごあめ」の文字。



「しょおくんって、りんご飴食べたことある?」

「りんご飴?あー、2回くらいは食べたことあるかな」



意外と食べづらいんだけど、見た目につられて、つい欲しくなるやつ。



「いいなぁ」

「潤は?ないの?」

「うん。虫歯になるからダメって」

「あー、うちも。だからじーちゃんかばあちゃんに買ってもらうの。親だと買ってくれないんだよね」

「ふふ、だよね、やっぱ親は買ってくれないんだ~」

「じゃあさ、俺が買ってあげようか?」

「え?」

「ママには内緒だぞ」

「え、いいよ、そんなつもりじゃ…」



茶化して言うと、慌てて遠慮するから
腕を引っ張ってその店先まで連れて行く。



「いいからいいから。どれがいい?」



りんごやイチゴや葡萄の飴が並んでいる。
艶々と煌めいて、宝石みたい。



「色んな種類あるんだね」

「ほんと。綺麗だね」

「やっぱ、王道のりんご、いっとくか?」

「いいの?」

「いいよ。りんご1つください。潤、どれがいい?」

「えーっと、それ!」



潤は、少し小ぶりだけど、鮮やかに赤いりんごの飴を選んだ。

店主がそれをひょいっと手渡す。


初めてりんご飴を手にした潤は
目をキラキラさせて大切そうに受け取った。



「しょおくん、ありがとう!」

「どういたしまして」



満面の笑みでお礼を言う。


可愛いなぁ。


そんな姿を見て、自分の顔が綻ぶのが分かる。

りんご飴くらいでこんなに喜んでくれるなら、お安い御用だよ。



「なぁ、せっかくだから、あっちで食べない?」

「うん。あ、でもしょおくん、カズの所に戻らなくていいの?」

「いいよ。お前だけに奢ったなんてバレたら面倒だから隠れて食べようぜ」

「そうだね、内緒だもんね」



悪戯を思いついた子供みたいに楽しそうに笑う。




俺はこのまま
明日には東京に戻らなければいけないのか…。





君の華やかな笑顔を見ていたら


時が止まってほしいと、初めて思った。




















つづく♡