夜7時。そろそろかな。
朝から何度も時計を見てる。

自分でも浮足立ってるのが分かる。



だって、今日は特別な日。




ピンポーン…



「来たっ。」



チャイムの音に心臓が跳ねる。

玄関まで走って勢いよくドアを開けると大好きな人が制服姿で立っていた。



「いらっしゃい!」

「ごめん、遅くなっちゃった。」

「全然いいよ!しょおくん、卒業おめでとうっ!!」

「うわっ。」



ドアを締めて振り向いたしょおくんに飛びついたらバランスを崩しそうになって2人でよろけた。



「あっぶねーな。」

「あはは。」



ぶっきらぼうに文句を言いながらも、ちゃんと抱きとめてくれるところが大好き。



今日はしょおくんの高校の卒業式。

お友達がたくさんいるしょおくんは式が終わってからも忙しいと思って会うのは諦めいたから、すっごく嬉しい!!



「ふふふっ、お友達とご飯食べてきたの?もういいの?」

「いいよ。卒業って言ったって、ほとんどそのまま大学に持ち上がるんだから。」

「しょおくんの特別な日に会えて嬉しいな。」

「潤、おばさんは?」

「パパもママもお出かけ中。」



玄関でしょおくんの首に絡まったままキスをする。


なんと幸運なことにちょうど家族は留守!!

お姉ちゃんが帰ってくるまでの少しの間、この家には2人だけ。
誰にも邪魔されることなく恋人でいられる時間。

あぁ神様ありがとう!!



「ふふ、そろそろ家に入れてよ。」

「あ、そうだね。どうぞいらっしゃいませ〜。」



手を引いてリビングに入ると、ダイニングテーブルの上に大きなフラワーアレンジメントが出迎えた。



「うぉっ、何これ。」

「しょおくんに。卒業のお祝いだよ。」

「え、マジで!?貰っちゃっていいの?」

「ママがいつもお世話になってますって。」

「うわ、すげー豪華じゃん!ありがと!!」

「うん。ところで…。」

「んー?」



嬉しそうに花を眺めているしょおくんに
さっきから気になっていることを聞いてみた。



「しょおくん、ボタンは?」

「あー、すげーだろ、売り切れ!
みんな持ってかれた。くれくれってうるせーんだよ。ったく、実は闇で売ったりしてねーだろうな。」

「売り切れ?みんな?全部…?」

「え?」



じっと顔を見る。

俺の様子に気づいたしょおくんが
明らかにヤベって顔をして目を逸らした。




「第二ボタンは?ちゃんと残ってるよね?」

「あー…。」

「だって、約束したよね?」

「えっ…と…。」



しょおくんの目は所在なげに泳ぐ。


嘘でしょ?無いってこと?

やばい、泣きそう。



「ごっ、ごめん、全部無くなっちゃった。みんな持ってかれて、誰のとこに行ってるかもよく分かんない。」

「何それ…。てゆーか、しょおくん俺と約束してたこと自体忘れてなかった?」

「うっ…!ま、まさか本気で言ってるとは思わなくて…。」

「マジで?嘘でしょ?もーーっ信じられない!!!」



ショックすぎる!!


普通、第二ボタンって1番好きな人にあげるんじゃないの?

高校時代のしょおくんの胸に
1番長い時間、1番近いところにあったはずの特別なボタン。

誰の手元にいってるかも分からないなんて…。



涙がポロポロと落ちる。



「バカバカ最低!!俺が1番に予約したのに!すっごく楽しみにしてたのに!!」

「ほんっとごめん!」

「うう〜っしょおくんのバカー!!」

「潤〜っ。」



ふわっと抱きしめて頭をポンポンと撫でる。

悔しいけど、それでホッとする自分がいる。



「あーもう、泣くなって…。」

「しょおくんの第二ボタン欲しかったよ…。」

「ほんとごめんね。」

「雑誌のインタビューで言い続けてやる。」

「ふふっ、ひどい仕返しだなー。」

「自業自得。」

「はい、真摯に受け止めます。」

「じゃあ…、何か違うのちょうだい。」

「違うの?」

「しょおくんの高校時代の思い出の何か。」

「えー、何かあるかな?
あ、腕のことのボタンならあるよ。」

「……小さい。」

「ぷっ、大きさじゃないだろ。」

「だってー。」

「最近では何でも小型化だから、小さい方が価値があるんだよ。」

「出た、屁理屈。」

「屁理屈ゆーな。」

「ぶーっ。」

「思い出の品なんかよりさ、お前には俺がいるんだからいいじゃん。」



俺の顔を覗きこんでにこっと微笑む。


ずるい。
その顔めちゃめちゃ好きなやつ。

そんな笑顔と言葉1つで
そうかも…なんて嬉しくなってしまう。
俺って単純。



「俺はお前だけのものなんだからさ。」

「その約束は、ちゃんと守ってよね。」

「当たり前。」



そっと優しいキスをすれば
ささくれ立ってた気持ちはふわっと柔らかくなってぽかぽかしてくる。



「好きだよ。ずっと…。」

「ん、俺も…。」




しょおくん、ずっと大好き。


卒業おめでとう。








♡おしまい♡