ペンが走る。


インスピレーションに導かれるまま
あれもこれもと頭の中に湧き出るイメージを細かく描き入れてゆく。


お気に入りのモチーフの少年がなんとなく君に似てくるのは、夢中になって画用紙に向き合っていても頭のどこかで君のことを考えているからなのかもしれないと

そのシャープな輪郭にホクロと瞳を描き入れた時にふと考えれば、手が止まってほぼ無意識に時計を見た。



今日、ニノは相葉ちゃんと映画だ。


君がこの映画を観たいと言った時「俺も観たいと思ってた」なんて言っていたら、今頃は隣にいられたのかな?

なんて、珍しく過去のことを考えたりしている。



不意に鳴ったLINEの音にハッとする。


今日はだめだな。
絵を描いてる時にLINEの音に気づくなんて。

ペンを置いて、小さく息を吐いてからスマホをタップする。


『12時に駅前の映画館に来られる?
まーくん風邪ひいてキャンセルになったから、大野さんどう?この前話してた映画』



「えっ」



思わず声が漏れた。

不意打ちだ。



時計に再び目をやって頭の中で計算する。

あと1時間。


駅まで自転車で10分、そこから電車で10分。待ち時間諸々考えたらトータル30分は見ておきたい。

つまり、30分以内に家を出なければ!



『行く』



一言だけ送信してからが勝負。
スピードモード、スイッチON。

シャワールームに駆け込み全速力で汗を流して、髪を拭きながらクローゼットを漁る。

くっそ、オシャレな服とか分かんねー!


んで、結局いつもの感じ。
まぁいっか。気張ってるのもなんか変だし。


荷物はいつも極少。
スマホと財布だけをポケットに突っ込む。これさえあれば何とかなる。


さて、家を出ようと思ったところで問題発覚。

昨日たまたま母ちゃんが買ってきてくれたスニーカーがショッピングバッグの中に入ったまま、玄関脇に置いてあるのを発見した。


どうする?


気持ちは今すぐにでも駅に行きたい。

だけど、新しい靴の方がいいかな。
いつもの靴はもうボロボロだ。これはこれで味だけど…。



「あーくそっ!」



おもむろにショッピングバッグを開けて中身を取り出す。

バタバタとキッチンに行って、ピカピカのスニーカーに付いている値札をパチンと切った。








♡♡♡






「おいーっす」

「やめろっ」


出会い頭に脇腹に軽くジャブをかましてくるのはいつもの君の挨拶。

だけど、なんとなくぎこちなく感じるのは、外で2人きりで会うのが初めてだからで



「相葉ちゃん、風邪だって?」

「そうみたい。でもチケット買っちゃったからさー」

「何時から?」

「えっと、12:30開演で、その15分前から入れるよ。ポップコーンとかどうする?」

「食う」

「だよね」



ポップコーンとドリンクを買えば、すぐに入場時間。2番シアターの真ん中辺の後ろの方に席を確認して声をかけた。



「ちょっとトイレ行ってくるわ」

「はーい」



バタバタして家を出てきたからな。
映画始まる前にトイレ済ませておこう。

通路の途中でLINEの着信に気づいて、ポケットからスマホを取り出す。



『リーダーに借りてたマンガ、次にしょーちゃんに貸してもいい?』



画面には、噂の相葉ちゃん。



『いいよ!
風邪は大丈夫?』



立ち止まってピコピコと返信して



『風邪?誰が?』



相葉ちゃんから返ってきたのは
意外な言葉だった。






♡♡♡





席に戻ると、ちょうど予告が始まったところだった。君の隣に腰を下ろす。



「相葉ちゃんからLINEきてたわ」

「へぇ」

「元気そうだね」

「……」



いつも涼しげな君の
焦った顔が見てみたくて



「ニーノちゃん?」



顔を覗き込んだ途端
いつもより少し強めの猫パンチ。



「ぐっ、」

「そんなの、お前が映画に誘わないからだろ」



可愛いことを吐き捨てて
ぷいっと向こうを向く。



「お前なぁ…」



ったく、素直じゃないなぁ。

いや、むしろ素直なのか。


襟足の後れ毛がくるんとなってる君の
後ろ姿がやけに綺麗で



「俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」



小さなハンバーグみたいな手を
自分の手でそっと包み込めば

驚いた顔で振り向いた。



「でも、来るって思ってた」



手のひらと手のひらを合わせるようにして、手を繋いで



「だって、あなたヒマでしょ?」

「ヒマじゃねーわ」



この期に及んで悪態をつく君が
無性に愛しくて



「今度は俺の観たい映画に付き合えよ」

「しょーがないなぁ」



素直な君も

素直じゃない君も


変わらず可愛いから



「あの、ポップコーン食べづらいんですけど」

「うるせー、反対の手で食え」



せっかく繋いだ手が離れないように

ぎゅっと指を絡めた。















大宮書いたの、実は二度目なのです。
智様と二宮執事のお話はこちら。