「昨日、どこ行ってたの?」



ずっと聞きたかった言葉を口にした。



「んー?何が?」

「急にバイトが入ったって言ってたじゃん。でも斗真がコンビニ寄ったらいなかったって…。」

「斗真来たの?気付かなかった。裏にいた時かなぁ。」

「でも…。」

「あ、ねぇ、一口ちょーだい。」



休みですって言われたって…

そう言いかけた俺の言葉は遮られた。



「んっ、美味しーい!俺もそっちにすれば良かったかなぁ。」



上目遣いでニコッと微笑む。

ついつられてニコッと返してしまって、
釈然としないままこの話はうやむやになった。


狙ってやってるのか、無意識なのか
この人はずるいといつも思う。


君は何食わぬ顔で嬉しそうに話を続ける。



「これからどうする?」

「観たい映画あるって言ってなかった?」

「あー、あれはもういいや。」

「もういいの?」

「うん、いい。それより、しょおくん家でゆっくりしたいな。」



ほら、やっぱりずるい。


君の甘えた一言で
俺の機嫌はいとも簡単に直る。

ほんの少しの計算高さも堪らなく可愛い。


惚れまくってんな、俺。














毎朝、君を見ていた。


駅を降りて学校へ向かう交差点を

制服の波に逆らうように歩いていくのが気になって気づいたら目で追うようになった。





同じ高校の1年生。ひとつ年下。
駅前のコンビニでバイトしてる。



俺の隣のクラスのイケメンと付き合ってて
毎朝改札まで迎えに来てるんだということは、後に風の噂で知った。


だけど、ある時からぱったりと朝の交差点に姿を見せなくなった。



別れたのかな



内心喜んでる自分に驚いた。

と、同時に自分の気持ちに気付いた俺は
それから猛アプローチして、今に至る。

君の隣にいられる権利を手に入れてから、そろそろ1か月。





だけど、気づいてるよ。

まだあいつと完全に切れてないってこと。









「しょおくん、好きだよ。」



君がそう言う時は

俺に愛してると言われたい時。



俺の家のソファで寛ぎながら

お得意の上目遣い。



「俺も…愛してるよ。」



そっと寝かせてお望みの言葉を囁けば

満足そうに目を閉じる。




「ん…。」

「愛してるよ…。」




愛してる。

本当だよ。




唇が重なって

舌が触れて


それから…




微睡んだその瞳が

潤んで揺れて


長い睫毛の奥に俺が映る。



慣れた仕草で腕を回せば、ふわっと漂う甘い香り。






昨日はあいつと一緒にいたの?




確かめたかったけど、キスに免じてその言葉は飲み込んだ。



「は…ぁ…しょお…。」



無防備なネクタイを解いて

はだけた素肌にキスをして



白い肌も

甘い吐息も

独り占めしてる筈なのに


 
妄想が先走って

胸を苦しくさせる。








誰かの代わりでもいいよ。




まだ、今は。







柔らかい棘で包むように

ゆっくりゆっくり侵食して



気づいた時には離れられないくらい

溺れさせてあげる。





初めての時よりも互いの呼吸が重なって

身体を重ねる度に少しずつ二人で描く形が滑らかな丸に近づいていって

シャボン玉みたいにふわふわ浮かぶ。





自由で、純粋で、ワガママで

甘いだけの蜜じゃ満足できない君。






君には俺しかいないんだよ。



そう魔法をかけるように

君の全てにキスをすれば



綺麗な顔が快楽に歪んで


俺の腕の中で次第に狂っていくのが愛おしい。









シャボン玉をいつ割ろうか。



切なく漏れる声を聞きながら考える。




今度は君が堕ちる番。

罠を仕掛けて君を待つ。





早く堕ちておいで。



君と俺だけの世界に。