結局、スープを何口か飲んだだけで席を立った。
「もういらない。」
「坊ちゃん…。」
「あのスープ、もう出さないように言っておいて。」
「…はい。」
フラフラする。
足元がおぼつかない。
「坊ちゃん!」
よろけた俺を西田が支えてくれて
2人で床にしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか?」
「西田…。」
こんな時
誰かの温もりや優しさが辛い。
「お怪我はありませんか?」
「俺…。」
さっき堪えた涙が
「俺…しょおくんが…好きだった…。」
言葉と一緒に溢れだす。
「ううっ…うっ…。」
俺、何でこんなこと言ってるんだろう。
弱いとこ見せたくないのに。
「坊ちゃん…西田がおります。」
泣いてる俺の背中を擦ってくれる
幼い頃から変わらない大きな手。
差し出されたハンカチを受け取って
しゃがみこんだまま、しばらく泣いた。
部屋に戻ると、ベッドに寝かせてくれた。
ぼんやりと天井を眺める。
「坊ちゃん、今日はゆっくりお休みくださいませ。食事も消化に良い物をこちらに運ばせます。
それから…大野様から電話が来ております。」
智から電話…。
「昨日から何度かかかってきておりまして…。また後日かけ直しますとお伝えしておいたのですがよろしかったでしょうか。」
「……。」
何も話す気にならない。
「では。何かありましたら、コールしてくださいませ。失礼いたします。」
弱っている時、言葉にしなくても意を汲んでくれる人の存在はありがたい。
西田が出て行った。
智。
今1番会いたくない。
俺が唯一、友達と呼べる相手。
智の側にはいつもニノがいる。
俺と出会った頃から、2人はずっと一緒。
智はいつもニノを頼りにしてるし、
ニノも何だかんだと言いながら
智の世話を焼いている。
2人の間には強い信頼関係がある。
俺と智と、何が違うんだろう。
あの2人は、俺の理想。
眩しすぎて今は見たくない。
指に光る指輪。
こんなことなら、借りなきゃ良かったな。
物だけ残されたって
辛いだけ。
物は受け取らないようにしてたんだ。
離れた時に辛くなるから。
物に価値はない。
あなたが側にいてくれなきゃ
意味なんてない。
『ずっとお側にいますよ。』
あなたの言葉を信じてたよ。
運命の2人はきっと離れることはないって。
どういうつもりでそう言ったの?
悲しくて
怒りがこみ上げる。
だけど外せないんだ。
悔しいけど、大好きなんだ。
しょおくん。
大嫌いで
大好きな人。
俺を置いていかないで。
会いたいよ。