さすがに疲れた。


大きく溜息をついて、
俺はソファの上にひっくり返った。


少し休もう。
まだ時間はある。






「あちっ」


向こうの部屋から声がする。




「しょおくーん、今日はマスカットティー…
あれ?寝ちゃったの~?」




相変わらず独り言多いな。



「最近、忙しいもんね。
俺、飲んじゃうよ~。んー、いい香り。」



小さな声で呟いて、ふー、ふーってしてる。

子供みてぇ。



「うーん、やっぱ2杯は飲めないな~」


ふふ、カワイイな。





潤の甘ったるい声を聞いてると
なんか眠くなる。


うとうとし始めた時。






揺らめくような香り。
目を閉じていても君と分かるよ。


唇に優しく重なる、甘い唇。



「ふふっ、しょおくん可愛い」



ふわっと髪を撫でて頬に触れる。


「ゆっくり休んでね」


もう一度キスをくれてから立ち上がろうとする細い手に、俺の左手を重ねる。


「しょお……んっ…」



右手で引き寄せて唇を塞ぐ。



広げられたままの新聞と、資料。
飲みかけの紅茶。



俺達の舌の絡まる音だけが響く。





「…しょおくん…おきてたの?」

「マスカットの味、しねーじゃん。」

「ふふ、フレーバーティーだからね。
香りだけだよ。残念でした。」

「残念じゃねーよ。
お前の味がする。」

「ばか」



そう言ってまた、唇を重ねる。








入所して間も無く。
潤が俺に好意を持っているとすぐに気付いた。

なんとなくキスすることはあったけど
潤の気持ちを受け入れたのはデビューしてから。


「夢みたい」


そう言って流した涙は、水晶みたいに透き通っていた。









夢じゃないよ。


起き上がって抱き締める。


耳にキスをする。
少しだけ、息がかかるように。



「んっ…ぁ…」



シャツの中に右手を滑らせる。


左手に絡む指にきゅっと力が入る。
息遣いが熱くなる。



「しょ…しょおくん」



潤んだ瞳。



「明日、撮影…ある…」

「脱ぐの?」

「……」

「分かってる。跡はつけないよ。」

「ごめん」

「謝るなよ。仕事だろ?」

「ん」




跡なんて付けないように気をつけてるけどさ。


潤がわざわざ言うってことは、今度の映画か。濡れ場があるって言ってた。



こういう時、堪らない気持ちになる。

子供じみた嫉妬をかき消したい。





「ベッドに行こう。ちゃんと愛し合いたい。」

「しょおくん、お仕事は?時間ないんじゃない?」

「時間よりお前が足りないよ。」

「ん…うれしい…」




抱きついてくる、可愛い人。






俺達の甘い時間はいつまでも続かない。



僅かな会瀬は
いつも背徳と隣り合わせ。



この関係がバレたら、あるのは破滅。

あの3人の悲しむ姿は見たくないのに。








ごめん。


俺達はもう抜け出せないところまで堕ちてしまった。

















つづく