まーくんは、僕のヒーローだ。


僕は、幼稚園のとき、園に馴染めずにいた。


だからいつも一人でブロックやつみ木や、本を読んで過ごしていた。

僕が一人で遊んでいると、名前は忘れちゃったけど上級生みたいに体の大きなクラスの子が、いつもからかってきた。


そいつは先生の見てないところで引っ掻かいたり、蹴ったりしてきた。

でも僕は体も小さかったし、イヤだったけど面倒くさくて、相手をしなかった。




ある日、僕が一人でつみ木ででっかい迷路を作っていると、

「わぁー!しゅごーーい!!」

まーくんが目をキラキラさせて褒めてくれた。

「…べつに。」

「ねぇねぇ、これなに?なにつくってるの?」

「えっと…、めいろだよ。」

「めいろ!?しゅごい!
やりたい!やりたい!やらしぇてー!」

「…いいよ。
えっとね、ここがシュタートでね、ここがわかれみちでね」

「こう?ねぇ、かじゅ…かじゅ…」

まーくんは、「かずなり」が言えなくて

「かじゅなりきゅん…」

「くん」も「きゅん」になった


「かじゅなりきゅん、いいじゅらい!
んーとね、にのみやだから…にのね!
ねぇ、にの、このみちは、こっち?」

ちょっと待って!にのってぼくのこと?

「え?」

「このみち!こっち?あれー?いけなーい」

まーくんの中ではもう僕の名前が「にの」に決定してしまったらしい。


なんか変な名前だけど、どうせ僕に話しかけてくるなんて、今日だけだ。
いちいち訂正するのも面倒だし、まいっか。


「ねえにの。ここにオバケつくろうよ!」

「うわぁ!じゃあ、これは、かいじょくのふねで、ワープできる!」

「しゅげー!じゃあさ、ゴールにはたからばこがある!」

「きょうりゅうは?どこにしゅる?」


僕とまーくんは、夢中で迷路を作った。

いつもは、何かを作ってる時に誰かがくると煩いなって思うんだけど、不思議と思わなかった。
それどころか、すごく楽しかった。






「ましゃきくん!かじゅなりくんなんかとあしょんでないで、たたかいごっこしようよ!」


あいつがきた。

あいつは、体も大きいし、力も強い。
同じクラスでは誰も逆らえない。

まーくんはこの頃から、明るくて元気で、みんなの人気者だった。
まーくんともっと遊びたかったけど、あいつが呼びに来たんじゃ、もうおしまいだ。


僕は、小さくため息をついた。


「ねえねえ、みてー!にのといっしょにめいろつくったの!にのね、しゅごいんだよ!」

「かじゅなりくんが?
べつに、しゅごくないよ!
ねぇ、あっちでたたかいごっこしようよ!」

「ぼく、いま、めいろつくってるから、たたかいごっこできない」

「じゃあ、ましゃきくんがレッドでもいいから!」

「うーん。でもいまは、にのとあしょびたいもん。
めいろ、もっとおおきくしゅるんだもん。
ねー、にのー!」

「なんだよー!ちゅまんねぇの!」


ガシャーーン!


迷路のつみ木が飛んだ。

「や、やめ…」

僕は、咄嗟に迷路の前に出て、それ以上壊されないように庇った。

いつもは、こんなこと絶対にしないんだけど、この迷路は壊されたくなかった。


あいつは今度は僕の背中を思いっきり蹴っ飛ばした。

いってー


「やめろよ!!」

まーくんが、あいつと僕の間に入った。

「な、なんだよ!」

「やめろよ!ともだちをけっちゃ、だめなんだよ!」

「かじゅなりくん、ともだちじゃないもん!」

「じゃあ、ぼくも!
おまえとはともだちじゃない!!」




一瞬、しーんとなった。




「せんせー、あっち!」

「こらー、ケンカはだめよ。仲良くあそびなさーい。」


あいつは、「やべっ」って言って逃げるように出ていった。
まーくんがすぐに僕の所に駆け寄ってきた。

「にの、だいじょうぶ?」

「ん…」


ありがとうって、思ってるのに、言葉が出ない。
僕と一緒にいたから…僕のせいだ…

「ごめ…めいろ、こわれちゃったね…」

「めいろは、またつくろう?
こんどはもっとしゅっごーいやつ!
しょれより、にの、しぇなか、だいじょうぶ?」


小さな手で僕の背中を擦ってくれた。


なんだか、急に涙が出てきて…


「にの、やっぱりいたいの?」

まーくんは、僕をぎゅっと抱き締めて、

「いたいの、いたいの、とんでけー!
いたいの、いたいの、とんでけー!」


まーくん、僕は痛くて泣いてるんじゃないよ。



まーくんは、僕が泣き止むまでずっと背中を擦ってくれた。











朝。

「にぃーーのぉーー!おはよっ!」

「……おはよ。」

「がっこう、いこっ。きょうはしょーちゃんたちにあうかなぁ?」

「きょうしつであえるよ」

「ちがうー!ぐうぜんあうのが、いいの」

「あれ?ランドセルは?」

「え?あ!
わすれた!ちょっとまってて!」


バタバタと家に取りに行く。

またか。
たしか2回、いや3回目か。


「おまたせー!」

「うぁっ!はち!!」

「ニノっ!うごいちゃだめ!こっちおいで」


まーくんは僕の手を取って、ゆっくりハチから離れてくれた。


「だいじょうぶだよ。
きゅうにうごかなければ、ささないよ」


ひまわりみたいに笑う

ほっぺにヨーグルトついてるくせに、
なんかカッコいい。



やっぱりまーくんは、僕のヒーローだ。


絶対教えてやんないけどね!