学校にはちょっと早めに着いた。
まだあまり人は多くなかった。

各クラスの前に貼り出してあるクラス編成の名簿から、手分けして自分の名前を探す。

「あ、翔!あったぞ!2組だ」

「2くみ?」

パパに呼ばれて走る。

「あっ!潤くんも2組だよ!
わー、良かったわね、翔!」

「えっ!じゅんもいっしょなの?
よっしゃあ!!

じゅーん!!2くみだって!
いっしょのクラスだよ!!」

「しょおくんといっしょなの!?
やったあー!!」

4組の方に名簿を見に行ってた潤が走ってきて、思いっきりハイタッチした。

「「いえーーーいっ!」」


そして、オレと潤は少しドキドキしながら教室に入った。

「あっ、そのランドセルぼくのとおなじだ!わあっ!!」

ガタガタッ!

いきなり話かけられてびっくりして振り返ると、そいつは机に足を引っかけて盛大に転んだ。

「まーくん、ちょっとだいじょうぶ?」

その後ろから、小柄な子が呆れながら駆け寄った。

「あの…だいじょうぶ?」

声をかけると、

「くふふ、だいじょうぶ!
ねえねえ、そのランドセル、ぼくのとおなじだよね!ほらほら!」

と、デカイ声でオレのランドセルを指差した。

「うるさいよ!
まーくん、こーふんしすぎだっつの!」

小柄な子がちょっと恥ずかしそうに言った。


オレの黒いランドセルは、赤いステッチが入っていて、背中の部分が赤布で、サッカーボールの型が押してある、サッカーモデルってやつだ。

サッカーを始めたばかりのオレは、このデザインに一目惚れして、おばあちゃんに買ってもらったんだ。


「あー!ホントだ!おなじだ!
サッカーやってるの?どこのチーム?」

「ううん。
ぼくね、こんどね、やきゅうチームにはいるの」

「???」

「えっとね、サッカーやってないんだけどね、カッコいいなーっておもったの!」

なになに?
野球チームに入るのに、サッカーモデルのランドセル買ってもらったの?

変わった奴だな…

「ええーっ?なにそれー!」

隣で潤が思いっきり笑ってる。
オレは、一瞬よく分からなかったけど、潤につられて笑ってしまった。

その賑やかなやつはスゲー面白くて、小柄な子とケンカ腰だけど楽しそうに喋る。
最初はびっくりしたけど、オレたちはすぐに打ち解けた。


4人でランドセルを見せ合いっこして騒いでいると、ふと視線を感じた。

振り返ると、優しそうな男の子がこっちを見てた。

あれ…この子、どこかで…。

記憶を手繰り寄せる。

「あっ!!
もしかして、さとしくん?」

するとその子はふにゃっと笑った。

「あ、やっぱりしょーくんだ」

「あー!さとしくんー!
どっかとおくにいっちゃったってきいたよ」

「きょうとにいってたんだけどね、もどってきたの」

智くんは、同じ保育園で仲良くしてたんだけど、年中さんくらいでキョウト、っていう遠い所に引っ越してしまったんだ。

だから…2年ぶり?
柔らかい雰囲気は全然変わってない。

うわー、めちゃめちゃ懐かしい!


「なに?みんなおなじほいくえんなの?」

賑やかなやつが聞いてきた。

「うん、えっとね、さくらほいくえんだよ。さとしくんはとちゅうからいなくなっちゃったんだ。」

「おおのさとし、だよ」

「えーっと、じゃあ、おーちゃん!」

「おーちゃん?」

オレと潤と智くんは、一瞬キョトンとしてしまった。

「まーくんは、勝手に名前つけるの。
イヤならイヤっていったほうがいいよ」

「イヤじゃないよねー?」

「うん、おーちゃん、いいとおもう!
ねえねえ、ぼくは?
ぼくね、まつもとじゅん。」

「じゃあ…まつじゅん!」

「まつじゅん!なんかカッコいい~!
あ、じゃあさ、しょおくんは?
さくらいしょおくんだよ」

「え、いや、オレはいいよ」

「しょーちゃん!」

「しょーちゃん?なんかふつーだね。」

「オイ!」

「だって、しょーちゃん、ってかんじするから!」


そいつは、オレたちを順に指差して、呼び名を勝手につけた。そのたびに5人で大笑いした。
そういえば、お互い名前も知らないで喋ってたな。

「ぼくは、まさき。こっちは、にの。
ぼくたちもね、おなじほいくえんだったんだー。」

「にの?にのっていうなまえなの?」

「あのね、ニノミヤだから、にの。
まーくんが、ヤダっつてんのにかってにつけたの」

「へーっ、なんかカワイイね」

「えっ、カワイイ…?」

「でしょ?いいなまえだよねーーっ」

「じぶんでいうなー」

「ふふふ。じゃあ、ぼく、
あいばちゃんってよぼうかな」

「じゃあ、ぼくは、まーってよぼうっと。」

「しょーちゃんは?しょーちゃんは、なんてよんでくれるの?」

「え?オレ?
オレは、べつに…ふつうに、まさきかな。」

「よびすて!!かっこいーっ!」

「しょーちゃんカッコいいっ!」

「えへへ、しょおくんはカッコいいんだよ」

「なんでじゅんがてれるんだよ」




「自分の名前が貼ってある机に座ってくださーい!」

ちょうどオレ達の呼名が決まったころ、先生らしき人が教室に入ってきて言った。
オレたちは慌てて自分の席についた。

雅紀に、ニノか。
潤も智くんもいっしょだし!

めっちゃ楽しくなりそうな予感しかない!

オレはワクワクしながら先生の話を聞いた。