「じゅんのうちにいってるね!」
そう言って玄関を出ようとすると、
「あーっ、翔、待って!
今日はこっちのくつよ。
スーツにスニーカーじゃおかしいでしょ」
ママがパタパタと追いかけてきて、
下駄箱の奥からローファーを出してくれた。
前に幼稚園の卒園式で一度はいたことがある茶色いローファー。
スニーカーの方が楽チンなのにな、と思いながらはきかえた。
「おっ、カッコいいな、翔!
じゃあ、ランドセルしょって庭で写真撮ろうか」
「えぇーっ
はやくじゅんのうちにいきたいのにぃ」
ぶーたれてみたけど、そのままパパとママに連行されて写真撮影会が始まってしまった。
こうなると長いんだよな…。
今日は小学校の入学式だ。
じゅんは隣に住んでいる幼なじみで、今日から一緒に一年生になる。
一緒に行くから潤を迎えに行こうと思ってたのに。
そうこうしてると、隣の玄関が開いて
「しょおくーん!!」
じゅんが大きなランドセルを背負って
…ランドセルはオレのと同じ大きさだけど、走ってきた。
「あっ!じゅん!おはよう!」
じゅんのママやパパも家から出てきて挨拶してる。
「しょおくん、めちゃめちゃカッコいいっ!!」
オレに思いっきり抱きついて、クリクリした目を更に大きくして見上げる。
じゅんは褒めるのがうまい。
いつもしょおくんカッコいい!大好き!って褒めてくれる。
さっきまでスーツが窮屈でイヤだと思ってたのに、じゅんに誉められるとその気になる。オレって単純なのかな。
「だろーっ?
じゅんもスゲーいいじゃん!」
「えへへ。ホント?
しょおくんにいわれるとうれしいな」
潤は、いつもオレをカッコいい!って言ってくれるけど、自分だって相当整った顔をしてる。
こいつが、女のコ?って聞かれてるとこを何回か見かけた。
まあ、オレもたまに間違えられるけど…。
二人の写真撮影会をしてから、二家族で車に乗り合わせて学校へ向かった。
「二人とも、今日から小学生かぁ」
「友達たくさんつくるんだぞ」
「ぼく、しょおくんがいれば、ともだちいらない…」
潤がオレの手をきゅっと握って、少し不安げにオレを見上げた。
潤は同い年なんだけど、なんか弟みたいにほっとけないんだ。オレが守ってあげなきゃ!
「潤は本当に翔くんが好きね」
「オレもじゅんがいればいい」
オレも手を握り返して潤を見た。
さっきまでの不安気な潤の表情がぱっと明るくなる。
「翔も、いつも家で潤くんの話してるのよ。ふふふ」
すると、潤のパパが言った。
「確かに、親友は一人いればいいかもな。でもね、友達たくさんつくれっていうのは、みんなと仲良くしてね、ってことだよ。」
「しんゆう?」
「大切な、特別な友達ってこと」
「じゃあさ、オレのしんゆうはじゅん?」
「ふふ、そうね」
「ぼくのしんゆうは、しょおくん?」
「そうだね」
特別な響きがうれしくて、オレたちは手の温もりを感じながら顔を見合せて笑った。