今回の映画は撮影期間が少し短くて2月に映画の撮影は終わった。そして4月下旬に試写会があり、その後、直ぐに上映された。
監督は一樹と美咲に入籍発表を待ってもらっていたので、撮影準備も撮影も編集も急ピッチで済ませた。
一樹は、試写会では今回はもう一枚のステージ衣装を事務所から持ってきて美咲に着せた。
一樹は美咲が一番美しく見えるようにコーディネイトするのが生き甲斐だったので、毎回、楽しくてしょうがなかった。とにかく美咲を人々にひけらかしたかった。
美咲はもう試写会で不安になることはなかったけれど、一樹も大成も美咲と手をつないで現れ、仲良しアピールをした。
前回の映画はハッピーエンドで終わらなかったせいで、観客は不完全燃焼気味だった。
今回の映画では二人が幸せな結婚をして終わった。完全なハッピーエンドだった。
前回の映画のサイドストーリーでもなければ続きでもなかったが、観客は完全燃焼した気がした。
大成派の人たちも「誠也は美里と結婚が決まっていたのに死んじゃったんだから仕方ないよね。死ななきゃ結婚してたんだものね」と納得した。今度の映画のおかげで八方丸く収まった。
監督は「もう入籍発表してくれて構わないよ。長く待たせて悪かったね」と二人に言った。
監督はこれまでの5作品で今の若い美咲の魅力は全て引き出せたと思って満足だった。
しかし美咲をこのまま素人として埋もれさせてしまうのは惜しいと思っていた。30代、40代、50代と円熟していく美咲を撮りたいと思った。
だが美咲は一樹と抱き合わせでなければオファを受けないだろう。二人を主演にするとなるとそう簡単ではなかった。どうしても話の内容が限られてくるから。
それでもいつか実現したいという野望を持っていた。
映画が上映されると美里と直樹が結婚式を挙げた教会で結婚式を挙げたいという人が増えて、教会とホテルは大喜びだった。教会にもホテルにも映画のポスターが沢山貼られた。
お陰で観光客も増えて漁港も以前より賑わうようになった。プチ聖地巡礼的な感じになっていた。
今年もゴールデンウィークのツアーの準備でペンションはメンバーとその家族や彼女が集まり、賑やかになった。
メンバーとそのパートナーが宿泊する度に一樹はセックスで燃えた。
客室でメンバーたちもセックスしているんじゃないかと思うとやけに興奮して張り切ってしまうのだった。
美咲は「スケベなカズ君だからしょうがないわね」と呆れた。
一樹と匠真のツアー中、美咲と舞は今年も浴衣のモデルに行って、大成と過ごした。
翌日は大成がまたサツキを見に連れて行ってくれて美咲も舞も寂しい思いを紛らわすことができた。今年も美咲は舞と二人でお弁当を作って持って行った。
勿論、大成は二人の手作り弁当なので感激して食べた。
二人と一緒に出掛けるのも、もう何年も経験して慣れてきたせいで、美女二人連れて歩くのも割と恥ずかしくなくなってきた。
5月のツアー後、一樹はプラスαの公式ホームページで「この度、一般人と籍を入れました。一般人と言っても、ご存じの方もいると思いますが、映画の共演者の咲です。咲はプロの役者ではありません。素人であり、一般人であり、普通の会社員です。映画にはエキストラということで出演していました。今もこれからも女優になることはありません。ですから、そっと見守っていただけますようお願いいたします。」とコメントを出した。
その日から二人は結婚指輪を堂々とはめた。
結婚指輪は昨年1回はめたのを除けば、結婚してから5年近くもはめることができなかった。
一樹は「やっと公表できた。これで堂々と美咲と二人だけで外出できるぞ。人前でイチャイチャしまくるぞ」と思った。
そして、「これまで、外でイチャイチャできなくてごめんね」と美咲に謝った。
「仕方ないわよ。アイドルの妻の宿命なんだもの。私はまだ、タクや舞がいたおかげでカズ君と一緒に色々な所へ出かけられただけマシだわ。イチャイチャはできなかったけど楽しかったから」
「これからはもっと色んな所へ行って、いっぱいイチャイチャしようね」
当然のことながら報道陣は放っておかなかった。籍を入れたという事実もさることながら、美咲が女優でなく素人で一般人だったということも衝撃だった。
監督の所まで取材が殺到し、監督は咲が女優ではなかったことを認めて、咲を起用したいきさつを話した。
1作目の映画の時にどうしても適役の女優が見つからなかったこと。プラスαのミュージックビデオに出ていた咲を見つけ、彼女しかいないということになり、素人なのだが強引に出演してもらったということを。
そして、今回の映画は実際にあった二人のドラマティックな出会いと別れと再会をアレンジしたものだということも打ち明けた。
そのため、今回の映画は主演の二人の実話が元になっていると話題になった。
前の長編映画のサイドストーリーではないのだが、観客は前の映画のサイドストーリーのような感覚で観た。
多くの人たちが一樹と美咲を祝福した。二人は結ばれる運命にあったと誰もが認めた。
一樹のファンは一樹が結婚したことを悲しむ人もいたが、多くのファンが納得し祝福した。
二人がお似合いのカップルだと誰もが思った。
入籍発表を聞いた崇拝者たち高校の同窓生は「やっと入籍できたんだね。おめでとう!ここまで長くかかったね。幸せになってね。カズ君、もう咲さんを手放しちゃダメだよ」と祝福コメントを投稿した。
崇拝者さんは二人が実際に入籍したのは昨年だと知っていたが口外はしなかった。
籍を入れたことを公表した一樹はついに美咲と二人だけで街を歩くことにした。
やっと念願が叶う思うとワクワクした。
「みさちゃん、僕、ペアルックで街を歩いてみたいんだ」
「そんなことして大丈夫なの?」
「僕たち、籍入れたって公表したんだから、これからは堂々とそういうことしていいんだよ」
「カズ君が良ければいいけど」
というわけで早速、お揃いのシャツを着て、一樹は白い細身のパンツ、美咲は白いスカートを履き、お揃いの白のスニーカーで出かけた。
美咲が手をつなごうとすると、一樹は美咲の肩を抱き寄せてべったりくっついて歩き出した。
一樹が「これからはいっぱいイチャイチャしようよ」というので美咲はおずおずと一樹の腰に手を回しちょっとだけ一樹に甘えた。
「今まで外でイチャイチャできなかった分、取り戻すぞ」と一樹は嬉しそうだった。
もし美咲の記憶が戻っていれば「小夜子さんとさんざんイチャイチャしてたでしょ」と嫌味を言われただろう。
でも、美咲はまだあの時の辛い記憶は取り戻していなかったので、小夜子と一樹の交際のことは知らないままだった。当然、二人がイチャイチャしていたことも知らなかった。
一樹は20歳の時に小夜子といっぱいイチャイチャしたこと、美咲がそれを知らずに幸せだと思い込んでいることが心苦しかった。
美咲は二人だけで外出するのは始めてだったのでソワソワした。一樹はアイドルだから注目されることに慣れていた、というよりは注目を浴びることが楽しかったが、美咲は慣れていなかったので恥ずかしかった。
一樹の陰に隠れるようにして一樹にしがみついて歩いた。人前でスピーチしたり、歌を歌うのは平気だったが、一樹と二人で夫婦として歩くのは照れ臭かった。
一樹は人前でも構わずに大胆にイチャイチャしてきたので美咲は心配になった。
「人前だから控えた方がいいんじゃない?」
「籍を入れたこと公表したんだから構やしないよ。スキャンダルにはならないから堂々としていればいいよ」
「本当にいいのかなあ。まあ、カズ君がいいって言うならいいけど」
「僕、美咲とずっとこういうことしたかったんだ」
「私だって本当はカズ君とイチャイチャしたかったわ。これまでは人目があったからできなかったけど」
「本当はもっと若い頃に美咲とこうしてデートしたかったなあ」
「私もよ。きっと初々しい気持ちで、もっと浮き浮きして楽しかったでしょうね。私たち、だいぶ大人になっちゃったものね。なんだか、この年になってイチャイチャするのって初々しさがないっていうか、新鮮味がないっていうかよね。若い子みたいにキャッキャと騒げないもの。やっぱり20歳くらいの頃にできてたらよかったのにね。その時だったら凄く嬉しかっただろうなって思うわ。でも、もう時間は戻せないものね。やり直せなくて寂しいわ。それに私、20歳の頃のカズ君の記憶、殆んどないから、あの頃のことを想像しようと思ってもできないわ。どうして20歳の頃のカズ君の記憶がないのかしら。電話で話した記憶もないのよ。不思議よね」
一樹は7年前、20歳の時、初々しい気持ちで小夜子といっぱいイチャイチャしながらデートしたことを思い出した。
美咲がそれを知ったら悲しむだろうと思った。美咲に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あれが小夜ちゃんじゃなくて美咲だったらよかったのに」と思ってため息をついた。
一樹が急に黙り込んでため息をついたので美咲は「どうかした?」と聞いた。
「20歳の時にできてたらと思ったら悲しくなっちゃった」
「仕方ないわよ。もう時間は巻き戻せないから、今を楽しむしかないわ」
「そうだね」一樹は美咲を抱き寄せ、軽くキスをした。
「ちょっとカズ君、人前でキスはさすがにダメよ」
「小夜ちゃんはそんなこと言わなかったなあ。人前でこれ見よがしに自分からいっぱいキスしてきたもんなあ。あれはいくらなんでも非常識だったなあ」
今更ながら、節度のある美咲との違いをまざまざと感じた。
「でも、僕たち映画でいっぱいキスシーン見せてるじゃん」
「もうカズ君たらあ」
映画でのキスシーンは演技ではなく本気の口づけだった。それを何千人もの人が映画館で観たんだ、大衆の前で晒したんだと思うと、美咲は赤面するほど恥ずかしくなった。
撮影の時は「台本に書かれているから迫真の演技をしなきゃ」という思いが強くて、人前でもそれほど恥ずかしくはなかった。本気の口づけでも演技ということになっていたから。
だが、思い返してみて、改めて恥ずかしくなった。
もう誰にも文句を言われることもなく、スキャンダルになる心配もなく二人は幸せを満喫した。
やっと人前でもラブラブな二人になれた。映画の結末さながらに。
道行く人たちは映画の主人公の二人だとわかっているので、二人がイチャイチャしていても映画の続きのような感覚で当たり前の光景である気がした。映画に感情移入している人が多く、「ここに至るまで長い間苦労したね。ハッピーエンドになって良かったね」という気分で微笑ましく見ていた。誰もが二人は結ばれるべくして結ばれたと思って祝福した。