バレンタインの日。
私は、大好きな渡邉さんに手作りクッキーを貰うことが出来た。
味はとても美味しくて、食べ切るのがもったいないと思いつつ、1個1個を味わって食べた。
渡邉さんの作った何かをまた食べたいとも思った。
そして袋には、クッキーの他に手紙が入っていた。
なんだろう?と思い、髪をめくると、渡邉さんの可愛らしい文字で4行ほど書いてあった。
『 志田さんへ
味は保証しませんが、
よかったら食べてください
りさ 』
私はその手紙を一生忘れないように、机の引き出しにそっとしまった。
ただの紙切れなのにね…。
そんなふうに舞い上がることが出来るのは、私が本当に渡邉さんを好きだから。
きっとはじめてだ。
私がこんなふうになってしまうのは。
今までいろんな人から告白されてきて、付き合ったりしてきたけど、ここまで人を想ったことがない。
だからこそ、渡邉さんに届いてほしい。
こんなにも私が渡邉さんを想っていることに…。
きっと渡邉さんは冗談だと思ってる。
本当に私が好きってことに気づいてない。
逆になんで渡邉さんは自信が無いのだろう?
あんなに可愛い顔をして、スタイルよくて、頭も良くて、運動も出来て、その上クラスのことをちゃんと見れるぐらいしっかりしてて、優しくて、笑顔が素敵で。
渡邉さんは人を惹き付ける魅力がたくさんあるのに。
まあ、そんな渡邉さんの良さを知って、好きになるのは私だけでいいんだけど。
でもそろそろ、私が本気で渡邉さんを好きってことに気づいて欲しい。
だから、ホワイトデーは想いを届けて、渡邉さんの隣で笑い合いたいんだ。
たくさん、調べた。
だけど、意味とか調べれば調べるほど頭が混乱しちゃって、無難にチョコにした。
それで、素直に想いを伝えればいっか。
いつも「好き」と伝えてるけど、スルーされる。
どうすれば届くのだろう?
自分の想いを語ればいいのだろうか。
そんなことを考えながら、渡邉さんへのお返し、ガトーショコラを完成させた。
翌日。
ホワイトデーの日。
すぐに渡す準備は出来ていなくて、放課後部活がないから、放課後に渡すことを心に決めた。
どうやって渡そう。どんなふうに伝えよう。
もし振られたら?…立ち直ること出来ないかも。
いつもは長く感じる6時間の授業が、こういう日に限って流れるように早く進んだ。
キーンコーンカーンコーン
帰りのSHRのチャイムが鳴り、私に想いを伝える時間だとチャイムが知らせる。
生徒がいすを引き、立ち上がる音。
放課後どこ行こう?と話してるクラスメイトの話し声。
全てが雑音に過ぎなかった。
そんななか渡邉さんは、窓側の一番後ろの席でカバンから本を取り出し、ページをめくる。
…私が一番初めに惚れた光景だ。
その姿を見てると、募って募って募ってきた渡邉さんへの想いが爆発しそうで、早く想いを伝えたくなった。
自然と足は渡邉さんの方へ動いていた。
気づいたら、教室には私と渡邉さん以外いないみたいで、絶好のチャンス。と考えれるぐらい今は余裕の気持ちで溢れている。
「渡邉さん」
そう渡邉さんの席の目の前に立つと、渡邉さんは視線を本から私へと移動させる。
バレンタインのお返し。と渡すと、素直に受け取ってくれた。
「バレンタインすごく美味しかった」
「ありがとう…ございます」
素直に感想を伝えても、冷静に返される。
「渡邉さん。好きです。」
「…ありがとうございます」
ほら、やっぱり。
冗談だと思われてる。
視線が私から本へ移動した…
なんで届かないのだろう?
なんだか本に負けたみたいですごく嫌だった。
だから、渡邉さんの手をとり立ち上がらせて、教室の隅へと移動した。
向かい合って、今の状況を飲み込めていない渡邉さんの目をじっーと見つめる。
渡邉さんはその空気が嫌だったのか、すぐに私から目を逸らす。
「こっち見て。」
声をかけると、恐る恐る私を見つめ直す。
「渡邉さん好きです。」
いつもは、ありがとうございます。と声が返ってくるのに、今回は返ってこなかった。
これは振られるの?
「…れ…て…っち…の」
この距離なのに、声が聞き取れなかった。
すると見つめ合っている渡邉さんの目が、少しウルっとしてることに気づいた。
だけど、その真相をすぐに理解することはできなかった。
「それってどっちの好きなの?!」
声を上げる渡邉さんに驚きが隠せなかった。
こんなふうに感情を表に出している渡邉さんは見たことがなかったから。
「どっちって…?」
「私は志田さんが好きです。でも、きっと志田さんの好きとは違う…!!」
さっきから何を言ってるの?
好きが違うってなに?
私は本当に渡邉さんを想ってる。
違うってなに…
次の言葉を探している時、渡邉さんの顔が近づき、触れ合った場所から全身へと熱が走り回る。
あとあと、渡邉さんにされたことを理解した。
今、キスされた…。
そう考えると、また言葉を失って、必死に思考を働かせる。
「私の好きはこの好きなの…!志田さんは違うでしょう?」
「違わない!!!!」
考えるというよりも、これは否定しないといけないと思った。だからすぐに言葉を否定した。
「私はずっと、恋愛感情で好き…。」
目の前で、渡邉さんが静かに涙を零すから。私まで冷たい涙が頬を濡らす。
「付き合ってください。」
「はい…!」
今度は嬉し泣きなのか、再び涙を零す渡邉さん。
そんな渡邉さんが愛おしくて、離したくなくて、気が付けば目の前の渡邉さんを抱きしめていた。
離したらすぐにいなくなっちゃいそうで、ずっと想っていて想いが届いたんだと思ったらすごく嬉しくてさらに強く抱きしめる。
「…苦しい」
「ごめん。」
慌てて身体を離すと、いつも遠くで見ていた笑顔が目の前にあって。
その現実にずっと溺れていたい。
もう一生離したくない。
ずっとずっと私の隣で笑ってて欲しい。
「愛佳…一緒に帰ろう?」
突然の“愛佳”呼びに驚きが隠せなくて、顔にニヤけが出てしまう。
「うん!理佐〜!」
理佐の手を握って、夕陽が私たちを照らしだす。
歩道には私たち二人の影が映し出されている。
ずっとこの手を離さないから。
終