戦争によって増大するエントロピーを喰らう巨大情報構築体<戦争獣>
“想像できないことを想像する"SFの粋を極めた書き下ろし最新巨編
1994年、北朝鮮・寧辺の核燃料保有施設を訪れた、国際原子力機関の核特別査察官である蒔野亮子は、使用済み核燃料の沈むプールの中で謎めいた生物が泳ぐ様を目撃する――それは戦争によって文明という負のエントロピーを正のエントロピーに“精算"する際に誕生する四次元生命体〈戦争獣〉。生態系ならぬ死態系に潜む死命(シノチ)の最優勢種である彼等は、永遠の闘争を生きる種族「異人(ホカヒビト)」のみが扱える。奔放な想像力が生み出す本格SF
エントロピーとは、エントロピーの意味
エントロピーとは、不可逆性や不規則性を含む、特殊な状態を表すときに用いられる概念である。簡単にいうと、「混沌」を意味する。もともとは熱力学において、エントロピーという言葉は使われ始めた。すべての熱をともなう物体は、「高い方から低い方へと流れる」という方向性を持っている。しかし、逆に、低い方から高い方には流れない。逆の現象は起こらないので、「エントロピーが発生している」と表現することとなる。ただ、統計力学や情報理論におけるエントロピーは、熱力学とは微妙に異なる意味合いで用いられている場面が多い。
統計力学では、所得格差を指し示すときにエントロピーが登場する。格差状態のない経済は「0」となり、格差が無秩序に広がっている場合は「エントロピーが大きい」と表現される。一方、情報理論の分野で、エントロピーは物事の可能性を示す指標として認識されてきた。可能性の低かった出来事が起こると、「情報エントロピーが大きくなる」などといわれる。(Weblio辞書より引用)
実に山田正紀さんらしい作品。
想像できないものを想像する。
ゆえに常に破綻の上を綱渡りすることになる。
ゆえに常に理解不能な部分を残す。
混沌。
カオスこそ山田正紀さんのアイデンティティ。
戦争のエネルギーを餌とする四次元非生物・戦争獣。
生態系の対局に存在する死態系。
生命に対応する死命。
永遠の闘争を生きる種族「異人」。
戦争獣「蚩尤」「黄帝」。
ネーミングセンスが光る。
戦争獣の戦いを中国神話になぞらえ、四次元やエントロピー増大の法則など、いかにもSFっぽい素材と組み合わせる。
神話とSFの親和性は高く、非日常感をオーバードライヴさせるような効果がある。
そして、計算する。計算する。
だが、計算は無謀なほどに奔放な想像を凌駕することはない。
混沌。
破綻。
どこか歯がゆいが、ぞれでもなお絶大なカタルシス。
それこそが山田正紀。
山田正紀こそが混沌である。
混沌は破綻すら呑み込んで膨張し続ける。
━山田正紀作品を満喫させていただきました。
面白かったです♪♪♪