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それまで知らなかった言葉や物事など、何か新しいことを知ったら、それが急に身の回りに増え始めたような経験はあるだろうか?
たとえば、新しい言葉を覚えたとしよう。そうしたら次の日、あなたの上司や先生がやたらとその言葉を使っているではないか。それどころか、今読んでいる本の中にまで書かれていた。一体どういうことなのか?
この不思議な認知効果は「バーダー・マインホフ現象(Baader-Meinhof Phenomenon)」と呼ばれている。
はたして、これは単なる偶然なのだろうか? それともきちんと合理的な説明ができる現象なのだろうか?
新たに知ったことに注意を向けやすくなるから
スタンフォード大学の言語学者アーノルド・ツウィッキー教授によると、バーダー・マインホフ現象は、より科学的には「頻度錯覚(frequency illusion)」と呼ぶべきなのだそうだ。
私たちの日常には、とんでもない量の情報・思考・感情が待ち構えている。さすがの脳といえど、それらすべてを処理することは不可能なので、どこに注意を向けるべきか選ばなければならない。これを「選択的注視」という。
私たちが何か新しいことを学習すると、この選択的注視が変化する。つまり、それまで無視していたことに以前よりも注意が向けられやすくなるのだ。
これがバーダー・マインホフ現象の原因の1つだ。
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脳は自分の正しさを裏付ける情報を求めている
もう1つの原因として、「確証バイアス」というものがある。
これは、あることについて自分の正しさを裏付けてくれるような情報ばかりを、脳が積極的に探すために生じるバイアスのことだ。
頻度錯覚の文脈でいうと、何か新しいことを学んだとき、この新しい情報が興味深いために、私たちはそればかりを探し求めるようになる。すると自然にその情報が目につくようになる。
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本当は元々あったことに目が向くようになっただけ
こうして新しく覚えた情報をそこかしこで見聞きするようになると、脳はその理由を説明しようとする。そして、こう告げるのだ――きっとみんな同時に同じことを発見したに違いない、と。
現実には、ただあなたが元々そこにあった情報へ注意を向けるようになっただけのことだ。発見したのは、あなた1人だ。
選択的注視と確証バイアスのおかげで頻度錯覚が生じると、なんだか特別なことが起きているように思えてくる。しかし、ここで”錯覚”と呼んでいるように、これは究極的には脳の働きによって生じているに過ぎない。
脳は世界が合理的に見えるようにパターンを探すのが大好きだ。一度、新しい情報を見つけたら、脳は引き続きそれを探し求め、そのために急に増えたと錯覚するようになる。
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バーダー・マインホフの由来とは?
バーダー・マインホフ現象の「バーダー・マインホフ」とは何か?それは、1970年代に爆破や放火、誘拐や暗殺といったテロ行為を行った西ドイツの極左民兵組織のことだ(日本では「ドイツ赤軍」や「西ドイツ赤軍」との名称が一般的)。
1994年、アメリカのセントポール・ミネソタ・パイオニア・プレス紙のある解説者が、それまで聞いたこともなかったバーダー・マインホフという言葉を24時間で2度も耳にしたことがあったのだという。そこで、この奇妙な現象を「バーダー・マインホフ現象」と紹介した。
この用語が世に広く知られるようになって、解説者も驚いたことだろう。だが2006年、ツウィッキー教授がより科学的に妥当な名称として、「頻度錯覚」という用語を考案した。
バーダー・マインホフ現象のビジネスへの応用
なお頻度錯覚は、ビジネスの世界で心理学を利用したマーケティング戦略としても利用されている。製品やサービスを人の心に根付かせ、それをずっと考えさせ続けることで、狙い通りの結果を得るやり方だ。
つかみとして、印象的なイメージやタイトルなどが使われる。こうしてターゲット層の気を引いたら、あの手この手でそのメッセージを送り続ける。
すると、その人たちは、製品やサービスがやたらと目に付くようになったことには何か特別な理由があるに違いないと思い込むようになる。そうなったらシメたものだ。
ただし、この戦略を採用しようか検討している会社は気をつけることだ。ターゲット広告を繰り返し流した結果、特別なものと思われるどころか、かえって気味悪がられる恐れもあるからだ。
☆物販に応用したいなぁ!