●これから紹介する話は、中国・六朝時代の書物「捜神後記」に載っているものである。
晋の時代のことだ。
ある漁師が舟に乗り、谷川を上っていったが、どこまで来たのか、わからなくなってしまった。
ふと気がつけば両岸いっぱいに、桃の林が広がっていた。
他の木は全くなく、漁師は不思議に思った。
川の水源の側で、桃の林は尽きていた。
その近くには山があり、それに洞穴が開いていた。
舟から降りた漁師は、洞穴へ入ってゆく。
洞穴を数十歩進むと、目の前が明るくなった。
洞穴の先には、村があった。
村民は、変わった服装を着ていた。
漁師は、異国に彷徨いこんだ気分になった。
村の人々は漁師を見て驚き、「どこから来たのか?」と尋ねてきた。
漁師が正直に、ここまで来たわけを話すと、村人達は家々に招待してくれた。
数日後、漁師は帰ることにした。
すると、村人の一人がこう言った。
「ここの事は、外の人に言わないで下さい」
漁師は、帰り道、ところどころに目印を付けた。
故郷へ帰ると、この出来事を太守に告げた。
※太守=地方を治めた権力者
太守は、漁師が話した村を探す事にした。
早速、部下を派遣。漁師に案内役をさせた。
しかし、漁師が付けた目印は既になくなっていた。
以来、この村(桃源郷)を探し当てた者は、誰もいないという。
皆さんも学校で習ったり、聞いた事があるであろう桃源郷という言葉は、この話から生まれたらしい。
本当にこんな村があったのか、それとも漁師が幻覚を見たのか?興味は尽きない。
余談だが私は少年時代、日帰り旅行で、埼玉県のある集落へ行った事があった。
「桃源郷のようだ」とある観光ガイドに載っていたので、興味を抱き行ったのだ。
西武鉄道の駅を降りて、顔振峠(源義経、武蔵坊弁慶の伝説が残る峠)へ向かって歩くと、やがてその集落に着いた。
その集落は、山の中腹にあり、ほのぼのとした雰囲気が漂っていた。
民家が少しあり、畑が広がり、梅の木がぽつんとあった。
他の町、村から隔絶した感じ。なるほど桃源郷ぽかった。
でも、中国の伝説の「桃源郷」より、スケールは小さかった。
その後、顔振峠へ行くと、ここは眺望が良かった。
「眺めが素晴らしいから、義経、弁慶が振り返りながら峠を越した」という伝説は、本当にあった事かもしれない。