吉本ばなな「白河夜船」 | 虹がでたなら

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吉本ばなな「白河夜船」

3つの短編集。
どの物語も、喪失感と透明感が漂う⋯。
どの物語の主人公も、大切な人を喪う。
親友を亡くした女性と、植物人間の妻をもつ男性の関係を描いた「白河夜船」。
兄を亡くした女性と兄の恋人の関係を描いた「夜と夜の旅人」。
三角関係だったライバルの女性が亡くなり、その霊?と交流する「ある体験」。
どの物語も切ないけれど、その悲しみを分かち合うことのできる人、喪失の事実を知らないながらも支えてくれる人がいる⋯というところに救いがある。

吉本ばななさんの文章は感情がとても豊かなことばで表現されていて、そして優しさにあふれている。
特に、「白河夜船」の、2人が恋に落ちる瞬間を描いた文章が素敵でした。
『自然に離そうとした私の手を、彼はほんの一瞬ぎゅっと強く握った。そして、びっくりして見上げたときその、海より深い、無窮を見つめるような瞳の色に、私はあらゆることを感じとった気がした。彼のこと、彼と私の大恋愛のきざしのこと、その瞬間、2人の間にある何かを私はまるごとすべてずっしりと見てとった。その時はじめて私は本当に彼に恋をした。その瞬間、海の前で、今までのいいかげんな気持ちがするりと本当の恋にすりかわった。』
⋯映像が目に浮かんでくるようですが⋯、「無窮を見つめるような瞳の色」ってどんな色だろう??
そんなふうに、その情景をイメージしたくなるような吉本さんの文章に引き込まれました。