芦沢央「汚れた手をそこで拭かない」
5つの短編集。
病気で死に瀕した妻が、過去にとらわれ苦しんでいる夫の悩みを解決する物語。
プールの水を流しっぱなしにしてしまった教員が、その罪を隠すために策をめぐらせる物語。
亡くなった隣人が、自分の家の電気を盗んでいたことを知る物語。
映画監督が、会心の作文ができたと満足していたところに出演者のスキャンダルが起こり、なんとか揉み消そうとあがく物語。
料理研究家として成功した女性が、狡猾な過去の恋人に脅迫される物語。
保身のため、猜疑心のため、なんとかしようとあがくほど、ますます窮地に陥っていく。
取り返しのつかないところまで追いつめられていく恐ろしさにゾクゾクする物語ばかり。
「悪いことをしたから悪いことが起きるとは限らない」…というせりふが特にコワイ。
汚れた手を、どこで拭けばいいのか?
物事のタイミングの難しさを実感しました。