角田光代「坂の途中の家」

刑事裁判の補充裁判員になった里沙子。
担当したのは、乳幼児虐待事件。
被告人の水穂は、生後8か月の娘を浴槽に落として溺死させた罪に問われている。
三歳の娘を義父母の家に預けながら裁判に通う里沙子は、水穂の証言、周りの人の証言を聞くうちに、自分のことのように感じてしまう。
思うようにいかない育児。
義父母や夫の何気ない一言に追い詰められる心理。
つい子どもにイライラをぶつけてしまう…。
水穂の境遇と自分を重ね合わせ、自分の過去や本音が溢れてくる…。
人は意識しないうちに人を追い詰めたり、些細なことで貶めてしまっていたり…。
そしてそれが大きな破壊力につながっていくことがある。
家族という常に生活を共にしている場合、少しずつ、じわじわと…。
里沙子は裁判をきっかけに、自分と家族との関係性に気づき、見つめ直すことができ、きつい思いをしたけれど、きっと前向きにこれからを考えて行くのだろうと思う。