「物語のおわり」 | 虹がでたなら

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湊かなえ「物語の終わり」。

最初にある物語が登場します。
「空の彼方」
パン屋の娘、絵美は、お店の手伝いをするうちに、お客さんのハムさん(ハムサンドをいつも買うのでそう呼んでいる)と恋に落ちる。
ハムさんは遠くの大学に行くけれど、絵美は、手紙を書きながら待ち続ける。
そして、手紙に小説を書くようになり、小説を書くことが楽しみに。
ハムさんは大学を出て戻ってきて、絵美と結婚しようとする。
そんな時、絵美に東京の作家に弟子入りする話がきて、絵美は悩んだ結果、東京に行くことを決めて駅に行く。
するとそこにハムさんがいた…。
…という、結末の書かれていない物語。

そして場面は変わり…。
北海道に旅をする人たちが次々と登場します。
妊娠三ヶ月で癌が発覚し、お腹の赤ちゃんと北海道に向かう智子。
プロカメラマンを目指しながらも、父親の死をきっかけに家業を継ぎ、夢をあきらめようとする拓真。
志望した会社に内定が決まりながらも自信の持てない綾子。
娘のアメリカ行きを反対する水木。
仕事一筋に証券会社で働いてきたあかね…。
共通するのは、自分の夢をあきらめざるを得なかったり、だれかの夢をあきらめさせようとしてしまったり、夢を前に迷う姿。

そんな人たちの手に、結末の書かれていない「空の彼方」という小説の原稿が渡されるのです。
そしてその小説がバトンのように順番に手渡されて行きます。
人生の岐路に立つ彼らは、自分や相手を絵美とハムさんに置き換えながら、自分だったら…と、この物語の終わりを考えるのです。

それぞれの物語が巧妙に繋がって、最後はストン、とはまります。
本当に見事な展開。

一人一人の生き方や考え方に自分の立場を重ねながら、私だったら…、と、想像を膨らませながら楽しめる物語です。