「羊と鋼の森」 | 虹がでたなら

虹がでたなら

わくわく・どきどき・しみじみ…なものたち

宮下奈都「羊と鋼の森」。

高校時代、ピアノの調律を見て、その音に、その姿に、その人にひかれて、調律師を目指すことにした青年が、調律を学び、成長していく姿。
いろいろな先輩調律師に出会い、いろいろなピアノに出会い、その持ち主に出会い、悩み、迷い、喜びながらピアノの世界、調律の世界にはまっていく…。

音の響きが聞こえてくるような、メロディが流れてくるような生き生きとした文章。
青年の心の動きがとても豊かな言葉で表現されていて、一緒にいて、一緒に感じ、一緒に考えているような気持ちになります。

特に、ピアノに出会って、美しいものに気づくようになったというくだりがとても素敵。

「ピアノに出会って以来、僕は記憶のなかからいくつもの美しいものを発見した。
…略…たとえば、泣き叫ぶ赤ん坊の眉間の皺。…略…
…たとえば、裸の木。山に遅い春が来て、裸の木々が一斉に芽吹くとき。…略…美しいと言葉に置き換えることで、いつでも取り出すことができるようになる。人に示したり交換したりすることもできるようになる。美しい箱はいつも身体の中にあり、僕はただその蓋を開ければいい。」

言葉の世界や響きを何度も繰り返し味わいたくなるような表現がたくさん。

そんな文章に導かれ、ピアノの魅力、調律の面白さにもはまっていきます。
調律って、安くはないから、ついつい間隔を開けてしまい、もうしばらく家のピアノはほったらかし。
ピアノに申し訳なくなってしまった…。