敦子のことずっと好きだった
生まれて初めて大切にしたいと思った人だった
敦子も私のことを好いてくれている気がした
いつも私にべったりで、キスをしたり手をつないだり
他のメンバーには絶対にしないようなことを私だけにはしてくれた
だから、告白して敦子と付き合いたいと思った
敦子と付き合えたらどれだけ幸せだろう
もう一生何もいらない
だって、今欲しいのは敦子、君だけだから
でも、告白することは許されなかった
私はAKBグループの総監督
何百人もの人をまとめなければならない
そして、皆の見本にならなければならない
そんな人が、恋愛禁止のAKBで誰かと付き合うなんて真似絶対にできない
だから、告白なんてできなかった
でも、何故だか分からないけど敦子は待ってくれる気がした
私がAKBを卒業するまで、私のことを待っててくれるかも
そんな思いが微かにあったから、告白できなくてもそんなに焦らなかったのかもしれない
でも、そんな気持ちはただ自惚れていただけだったんだね・・・
オフで何もすることがなく、ただテレビを見ながらぼーっとしていた
本当は敦子に会いたかったけど、卒業してから何か忙しそうだったから電話を掛けづらかった
そんなことを思っていたとき、テレビのテロップに「前田敦子、熱愛!!」と映し出された
何秒か理解することが出来ず、フリーズしていた
「えーーーーーーーーーーー!」
我に返った時には、大声で叫んでいた
あの敦子が熱愛?あの不器用な敦子が?
全然理解できずに、頭がパニックになった
私のこと、待っててくれると思っていたのに
私のこと好きだったんじゃないの?
様々な疑問が頭の中を駆け巡った
だけど、少しずつ落ち着きを取り戻した
まるで、覚悟していたかのように
私にはそんな気持ち自覚してなかったけど、心の片隅では「もしかしたら・・・」と思っていたのかもしれな
い
後悔と悲しさが胸にこみ上げて来た
あの時、余裕ぶってないで告白してれば良かった
敦子はどんどん綺麗になっていて、色々な人にモテているというのも分かっていたのに
あの時、余裕ぶっていた自分に腹が立った
私は頭を抱えて、床にうずくまった
もうあの笑顔、私だけに向けられるものじゃないんだ
抱きしめてくれるのも、キスしてくれるのももう私じゃないんだ
だんだん悲しさが襲ってきて、大粒の涙を流した
もう後悔しても遅い
あの時、ちゃんと捕まえとけばよかったんだ
「好き」その一言を言っていれば、こんな思いしなくて済んだのに
「誰のものにもならないで」「私だけの敦子でいて」
いまさら、敦子に言いたかった言葉が次々と出てきた
もう手遅れなんだ
応援するしかないよな
敦子には私の分まで幸せになってもらおう
辛すぎるけど、自業自得だ
そう開き直るしかなかった
でも、「最後に敦子の声が聞きたい」そう思った
敦子の幸せそうな声を聞くことで、しっかりと踏ん切りがつけられるような気がしたから
そして、その電話を最後に敦子と連絡をとるのはやめよう
敦子はもう幸せを掴もうとしているんだから
その幸せを邪魔する権利は私にはない
もう絶対に近くで聞くことの出来ない声
その声を聞いて、終わりにしよう
電話を掛けるのに相当戸惑った
リダイヤルまでは画面に表示されるんだけど、呼び出しボタンを押すのが怖かった
このボタンを押すのは最後だから
手を震わせながら、ボタンを押した
私の気持ちとは裏腹な陽気な洋楽が流れている
なかなか出ないので、切ろうと思ったら懐かしい声が聞こえてきた
『もしもし、たかみな?』
私が大好きだった声
「おう、敦子久しぶり」
冷静を装って明るく敦子に話しかけた
「ニュース見たよ、おめでとう!付き合ってる人いるんだ」
『あ・・・うん」
何でそんな悲しそうな声出すんだよ
諦めきれなくなるだろう
それでも、明るい声で敦子に喋りかけた
「しかも、家族公認の仲とか結婚秒読みじゃん(笑)」
『結婚とかまだ早いよ(笑)まだ私22だよ』
「でも、いずれその人と結婚するやろ?結婚を前提に付き合ってるから家族にも紹介してるんだろうから」
本当はそんなことを言いたい訳じゃない
結婚なんかしないで、そんな奴やめて私にしてよ、本当はそう言いたかった
でも、そんなことを言える立場じゃない
自分で自分の気持ちを抑えるしかない
『まぁ・・・そうだね』
「敦子、絶対に幸せになれよ。ずっと応援してるから」
『ありがとう・・・』
「じゃ、言いたかったことはそれだけだから。じゃあ」
一方的に電話を切った
このまま電話をしていたら、絶対に自分の気持ちを言ってしまうと思ったから
そんな事したら、敦子を戸惑わせるだけだって分かってたから
終始、敦子の声は悲しそうで、会いに行って抱きしめてやりたくなった
でも、敦子を抱きしめるのはもう私の役目じゃない
改めてそう思うと、止まったはずの涙がまたこぼれだした
「うぅ、あつこ」
うわ言のように敦子の名前を呼んだ
もう本人の前で呼ぶことはない名前を
私はあの電話以来、敦子という名前を電話帳から消し去った
もう無かったものとして考えないと、この先やっていけなかった
そして、もう敦子が出ているテレビを見なくなった
敦子が出ていたらすぐにチャンネルを変える、それが私がテレビを見ているときに気をつけていることだっ
た
敦子を見ていたら、また電話したくなってしまうから
また、会いたくなってしまうから
前までは、敦子が出ているテレビ見たらテンション上がってたはずなんだけどな
敦子からも電話を掛けてこないおかげで、私も少しずつ落ち着きを取り戻していた
でも、それは別に私のことを気にしてないって意味でもあるんだよな
そう思えば、逆になんか立ち直れるかも
所詮、私の片思いだったと思えばもう大丈夫
私の気持ちは錘をつけて、心の奥底に沈めたから
だから、もう私の気持ちなんてどうだっていいから、敦子だけが幸せになって
たった一人、私が愛した君だけが私の分まで幸せになって
君が幸せならば、私も幸せだから
