2019年の翻訳祭のテーマは、「新たなる時代の幕開け
~言葉のスペシャリストたちの新しい船出~」。

 

機械翻訳に注目が集まる中、令和最初の翻訳祭としてピッタリなテーマなのかなと思いました。

 

京都開催だったため昨年の翻訳祭には参加できませんでしたが、横浜開催の今年は、張り切って交流パーティーにまで参加してきました。

 

みなとみらいにはよく行くのですが、パシフィコ横浜の会議センターに入ったのは初めてでした。

 

 

受付についたのは9時ちょっとすぎなのですが、すでに長蛇の列が・・。

おととしの市ヶ谷会場の時も人が多いなと思いましたが、今年は会場が広くなったにもかかわらずこれほどまでに人の多さを感じるということは、相当の人数が参加されていたということですね。

 

さてまず最初に・・・

今年とても良かったなと思ったことの1つは、「サテライト会場」の存在です。

事前の調査で人が集中しそうなセッションについては別室のサテライト会場が用意され、本会場が満席になったらサテライト会場へ案内されることになりました。

おかげで立ち見で1時間半を過ごす・・・なんてことはなく、椅子に座ってゆっくりセッションを聴講することができました。音声もスライドも、本会場同様に見ることができました。

1つだけ贅沢言わせていただくならば、リアルタイムで本会場の様子も流していただけるとよかったかもしれません(複数の方がお話されるセッションだと、どなたが話していらっしゃるのか、声だけだとよくわかりませんでした。)

この件、アンケートに書き忘れてしまったので、ここに書かせていただきました。

 


 

さて、参加したセッションについてのレポートをしてみようと思います。

各セッションの詳細な内容またはポイントについては、リアルタイムでツイートしてくださった方がいるので、そちらをご覧いただくと参考になるかと思います。

ひとまず私は、個人的に特に記憶に残っているものについてメモを頼りに書いていきたいと思います。

 

黄色い花 セッション1 黄色い花

9:30-11:00
【MT】 ニューラル機械翻訳の最前線

 

以前の記事で少し書きましたが、少し前に某MTを試しに使ってみて自分なりの感想や評価がいろいろありましたので、翻訳祭ではその考えや方向性が間違っていないかどうかを確認したいと思っていました。

 

そういう観点からもいろいろ収穫がありましたが、そもそもニューラル翻訳とは何ぞや?という、超基本的なことも全然わかっていない状態でしたので(「なんかすごいらしい」くらいしかわかっていない状態だったあせる)、いろいろと参考になりました。

 

まず前半は、ニューラル翻訳の仕組みについての説明でした。

正直、最初はさっぱりわからず頭の中は?マークが飛び交っていましたが、ひとまず以下の2つについてはわかりました。

  • ニューラル翻訳は「文」と「文章」を明確に区別する
    (Google翻訳は「文のみ」)
  • ニューラル翻訳では入力(原文)と出力(訳文)以外はすべて実数値で処理される
    (何やら数学的で専門的なので実際にはどういうことなのかわからないけど理論的には分かったような気になってみた)

とにかく、Tradosのような用例ベースのものとは全く違うものであること、だからこそ、これまで起こらなかった問題(「訳抜け」や「湧き出し(思いもよらない言葉が湧いてでること)」)が起きる、ということがなんとなく分かったような気がしました。

 

MTの訓練に使う文は、計算上の都合によりMax100語までなど制限もあるそうです。(長文になると、訳の精度が急激に落ちたり、訳抜けが起きたりする)

 

また、「逆翻訳」を利用したMTの学習(訳出結果を逆翻訳した時に、その結果と原文と一致するように学習させる)というのも面白かったです。

 

そうそう、「機械翻訳用語」には、エジプト由来の用語が多いそうです(ナイルとかギザとかモーゼとか)。これはロゼッタストーンにちなんだものらしいのですが、ちょっと面白いなと思いました。

 

そして、私がとても面白く感じたのは、後半のお話。

 

セッションの最初と半ばで、

 

機械翻訳は人間の翻訳者を超えるか?

人間の翻訳者は不要になるか?

 

という問いかけをされました。

 

中澤さんは、

「そんな質問自体がナンセンス」とおっしゃっていました。

 

人間翻訳と機械翻訳は全く違うモノ
(一般的には理解されていないけど)

 

使い方次第では、すでに十分実用的。

 
「翻訳だけならAIで十分」なのではなく、「AIにでもできる翻訳ならAIで十分」ということだと。
 

あとは何ておっしゃっていたかな、あ、そうそう、

誤りのない翻訳の保証なんてAIにはできない
⇒人のチェックが必要

 

先日の台風の時の「川に向かって逃げろ」という誤訳の件を挙げ、それと絡めて、「ソフトウェアは製造物責任対象外」と言っていたのが印象的でした。

誤訳は誰が責任を取るのか・・という辺りとも関係してくる内容だと思うのですが、少なくとも、開発者の責任ではないってことですよね。

 

あとは今後の展望として、

 

現在の機械翻訳のレベルよりも下の翻訳者はAIに仕事を奪われる可能性が大きいため、翻訳者は、最低限、機械翻訳以上の翻訳能力を身に付ける必要がある

とおっしゃっていたのも印象的でした。

ここは共通の認識なんですね。


そして最後に、これを聴けただけでもこのセッションを聴いた価値があったなと思えたのは、

<企業に必要なもの>と、<開発者からの翻訳者・翻訳会社への提言>でした。

 

<MTを導入する企業に必要なもの>

  • データとエンジンを使いこなせるエンジニア
  • ある程度のNMTの知識

私はさらに

  • 機械がアウトプットした翻訳を正当に評価できる人

・・・というのも追加しておきたいかも。

 

<翻訳会社への提言>

  • 顧客が求める品質に応じたプランを用意し、MT、PE、人手を適材適所に
  • 「MT+PE」だからもっと安くできる」という誤解を解消するべき

過去の記事(「翻訳者視点で機械翻訳を語る会」についての感想)で、Tradosを広めるときの営業的な売り文句について少し書きましたが、やっぱり「安い・早い・うまい」だけのおいしい売り文句だけで売られてしまうと困りますね。

「MT+PE」だからもっと安くできる」とコストダウンを売りにしてしまうと、被害を被るのはPEをやる人になるし、最終的には自分たちの首を絞めることになりかねない・・やっぱりTradosの時のことを思い出してしまいます。

 

<翻訳者への提言>

  • Light Post-editorを見下してはいけない。
  • 質の高い訳を目指して努力することはもちろん重要だけど、プロならば相手の要求に応じて最適な(効率的な)方法で翻訳が行えるようになるべき
  • もっと機械翻訳について学ぶべき

 

1つ目の項目については、ちょっとドキっとさせられました。
別に見下しているわけではないのですが、Google翻訳並みの翻訳なのであれば、絶対にやりたくないと思っているので、結局はそういうことなのかと。

 

2つ目と3つ目についても、なるほどね、と思いました。

 

自分が翻訳する際にはMTを使う気は現時点ではないけれども、Google翻訳のレベルで見てしまうからものすごい抵抗があるだけなのかな、とも思います。

データベースが良質な翻訳で、使い方がすごく良くて・・という感じで条件が合えば、とてつもない精度の訳が出てきてPEが楽…なんてこともあるのかもしれないし、MTがいつ驚異的にレベルアップするかもわからないし、Tradosのように営業パワーが勝ってMTのシェアが拡大して対応せざるを得なくなることも考えられるし、この先何が起こるかわかりません。

でも、どうなったとしても自分が都合よく動けるように、情報収集だけは怠らないようにしておきたいなと、やはり思ったのでした。

 

**追記(10/27)ここから**

それにしても、中澤さんはずいぶん翻訳者へ気を遣ってお話されている印象を持ちました。

 

私は開発者目線でMTのお話を聞いたのは今回が初めてだったのですが、もっと「MT至上主義」、「人間の翻訳はMTには敵わない」という強烈な見方をしているかと思っていたのですが、もっと冷静というか、「MTはMT」、「人間の翻訳は人間の翻訳」と、区別されていること(当然のことなのですが)、翻訳者や翻訳会社に対する提言といったものを聞くことができたのが大きな収穫でした。
もちろん誰もが同じ考えでいるわけではないとは思いますが、普段目にするのはどうしても「翻訳者から見たMT」になってしまうので、別の視点からの意見を聞けたのは貴重な機会だったと思います。

***追記ここまで***

 

セッション1について書いただけでもこんなに長くなってしまいましたので、ひとまず今宵はここまでにしたいと思います。

 

レポートについては自分のノートを見ながら書いているため、もしかしたら誤っている情報があるかもしれません。

もしお気づきの点がありましたら、コッソリ教えていただけましたら助かります。

 

では、続きはまた!

 

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