読者の方からリクエストがありましたので,
大学入試史上 最も難しい問題を紹介します。
1998年東大後期入試,数学の問3です。
数学オリンピックの難問レベル,
大学の数学科の学生の夏のレポート課題並です。
ちなみに,私はこの問題を解くのに2日かかりました。
詳しい問題は,河合塾のHP
http://hiw.oo.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/98/problem.cgi/t2/math?page=2
(HPの解答には不十分な点があります。)
最難問は,問3の(2)
その部分を,表現を変えて分かりやすく伝えると
のようになります。
【解説】
実験をしてみると
(ア) nが3の倍数のとき と nが3で割って1余るときに
○○・・・○
は可能で
(イ) nが3で割って2余るとき は不可能
ということが予想できます。
(ア)の証明は帰納法を使うとできます。普通の発展問題レベルです。
n=1のとき
○ は出来ている
また,n=3のとき
○ の右端につなぐ → ●○ の左端につなぐ → ○○○ 完成
n=3m+1 また 3m のとき
○○・・・・○ ができると仮定する
n=3m+4 また 3m+3 のとき
○○・・・○ 「右端につなぐ」
→○○・・・●○ 「右端につなぐ」
→○○・・・●●○ 「●●の間に入れる」
→○○・・・○○○○
したがって,nが3で割って1余る または 3の倍数のとき
○○・・・○ は可能である。
(イ)の証明が難関です。
一般的に「不可能」の証明は難しいものです。
私は,このようなパズル的な問題の場合 「不変量はないか」 と考えます。
「不変量」とは,操作を何回しても変わらないものです。
例えば,○を1個加えて,○が●に,●は○に変化するので,○と●の個数の差の変化量は必ず奇数になります。しかし,この不変量では問題が解決しません。
しかも,操作が2種類あって,その操作の順序もバラバラです。
解法は3つのステップで行います。
①「操作2,操作1の順」 と 「操作1,操作2の順」 も同じ結果になる。
したがって,操作の順番は 操作1,1,1,・・・,1,操作2,2,2,・・・,2 と決めても一般性を失わない
② 操作1終了時点では必ず
○●●・・・●○●●・・・●○ または ○●●・・・●, ●●・・・●○
(ただし,●の並びは0個のこともある。)
③ ○=120°回転変換の行列W,●=x軸対称変換の行列B に置きかえたとき,
操作2を行っても,行列の積の値は「不変」である。
したがって,n=3m+2のとき
○○○・・・・○ になるためには
行列の積が
WWW・・・W=W^2 (∵W^3=E単位行列)
ところが,操作1が終了した時点での行列の積はW^2になりえない
∴n=3m+2 のとき ○○○・・・○は不可能である。
<①②③それぞれの証明>
① X,Y,Zは○か●, x,y,zはそれぞれX,Y,Zの逆の色とおく
・・・XY・・・Z に操作2→1 を行ったとき
・・・x○y・・・Z → ・・・x○y・・・z○
・・・XY・・・Z に操作1→2 を行ったとき
・・・XY・・・z○ → ・・・x○y・・・z○
・・・XY にに操作2→1 を行ったとき
・・・x○y → ・・・x○Y○
・・・XY に操作1→2 を行ったとき
・・・Xy○ → ・・・x○Y○
∴「操作2→1」の順番 は 「操作1→2」の順番に置きかえても結果は同じである。
操作の順番を数列にして ,21 の並びを 12 に変更していくと必ず2が後ろに1つずれるので
任意の数列は 11・・・122・・・2 の形になる。
②操作1のみをおこなうと
スタート ○
1回後 ○●, ●○
2回後 ○●●,○○○,●●○
3回後 ○●●●,○●○○,○○●○,●●●○
4回後 ○●●●●,○●●○○,○●○●○,○○●●○,●●●●○
以後,端に○を加えても,内部の○は増えることはないので
操作1終了後は
○●●・・・●○●●・・・●○ または ○●●・・・●, ●●・・・●○
(ただし,●の並びは0個のこともある。)
になる。
③操作2での変化をすべて列挙すると
○○→●○●
○●→●○○
●○→○○●
●●→○○○
ここで,行列W(120°の回転) (W^3=E単位行列)
-1/2 √3/2
√3/2 1/2
行列B(x軸対称) (B^2=E)
1 0
0 -1
を考え,○=W, ●=B と置き換えると
操作2の4つのパターンに全て附合する
WW=BWB
WB=BWW
BW=WWB
BB=WWW
○が3m+2個並ぶ列を行列の積に置き換えると
WWW・WWW・・・・WWW・WW=W^2
一方,操作1終了後のパターンを行列の積に置き換える
B^2=Eより
○●●(偶数個)・・・●○●●(偶数個)・・・●○=W^3=E
○●●(偶数個)・・・●○●●(奇数個)・・・●○=(WWB)W=(BW)W=WB
○●●(奇数個)・・・●○●●(偶数個)・・・●○=W(BWW)=W(WB)=BW
○●●(奇数個)・・・●○●●(奇数個)・・・●○=W(BWB)W=W(W)W=E
○●●(偶数個)・・・●=W
○●●(奇数個)・・・●=WB
●●(偶数個)・・・●○=W
●●(奇数個)・・・●○=BW
いずれも,W^2に等しくない
したがって,操作2を何度行っても,W^2になることはない
∴3m+2個の○が並ぶ列は実現不可能である。
注,行列が出てきた思考過程は
不変量を作りたいので,○と●の個数の多項式や,複素数への置き換えを考えたがNG。
→○●の並び順まで考慮に入れなければならない
→積の順によって結果が変わる行列が適当
→3の倍数がキーなので,3乗して単位行列になる120°回転行列に注目した。
→●●=○○○ が必要なので,●として180°回転行列を考えたが,積の交換ができるのでNG
→●としてx軸対称の行列を考えた。