秘密の基地

僕が小学生の頃、秘密の基地はマンションの屋上にあった。マンションの管理センターの人しか入れない屋上への入り方は簡単。柵を登るだけ。ただ柵と天井の壁の隙間が狭いからデブは入れなかった記憶がある。

そんなマンションは家から30秒もかからないところに当時ではそこそこ珍しい12階建ての高層マンションだった。
あの当時って周りにマンションはあっても8階建てとかでその12階というマンションはかなり目立っていた。そしてその屋上に上がった時、名古屋の景色を360度見渡し小学生ながら天下を取った気分だった。

夏は花火大会を見に侵入した。特等席だった。夜景と花火、大人になって好きな人とここにくるんだって思いながら気づくとその秘密の基地は小学生にとってかっこうのエロ本隠し場と化した。

日に日に溜まってくエロ本と性に対する知識はもはや同学年の中でも俺たちはダントツトップだった。

エロ本は基本、買わない。
基本、買えない。そして買った覚えがない。全部拾うのだ。ゴミ置き場から。2週間も各ゴミ置き場を周ればどこのゴミ置き場にエロ本があるかわかってしまう。そこの住人がどんなエロ本が好きか思考まで把握していた。
そんなエロ本が当時、そのマンションの屋上には200冊以上集まった。

みんな学校が終わるとそのマンションの屋上に集まって読者の時間が始まった。
それこそみんな無言で真剣に読んだ。
そんな悶々とした日が続いたある日、読み飽きたエロ本の処理に困った。

どうしようか、そのままでいいけどバレた時にこの量は恥ずかしいしな。

そこで誰かが閃いた。
当時は冬季オリンピックの年
誰がこのエロ本を遠くまで飛ばせるかって。
そして目標であるK点は12階建ての隣に古くから建つ6階建てのマンションの屋上になった。

ここの屋上は誰もが出入りできる上に屋上はフットサルのコートくらい広い。
ここ12階から投げれば6階の屋上に楽勝で届くと思っていた。

あるやつは砲丸投げのように、負けじと円盤投げと、槍投げと、第一回エロリンピックは開幕した。
チャンスは一人10冊以上ある。

バサバサバサバサバサバサーーーーーーー!!と

翼の生えたエロ本達は新たな住処を目指し飛び立った。

安住の地を求め飛び立ったエロ本だったが、やがて力尽き羽を何ページかもがれながら屋上の手前から急降下し、5階の住人のベランダにバサッと落下した。

やべっ!

お前なにしとんだて!

やべっ!

いや、でもばれねーか?


……そっか、そうだよな。

よっしゃ、じゃあ俺いくぞ!

バサバサバサバサバサバサバサバサーー!!

ザサーー!

今度は3階に不時着した。

不安の声は
笑い声に変わった。

これおもしれーぞ!

プレゼントだ、これ!

よく考えてみれば向かいのマンションは単身赴任者専用のマンションだったのだ。

もはや屋上を目指すエロリンピックは俺たちサンタからのクリスマスプレゼントになっていた。

全員大きな声で

『メリークリスマーース』
といいながらエロ本を投げまくった。

バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサーー!ーーーーー!!

と何冊も何冊も宙を舞い、各々のベランダに落ちていくサプライズプレゼント達。

有意義な時間はあっという間に過ぎ去り、200冊もあった読み飽きたエロ本はプレゼントに変わり、そしてその場にいた俺たちはこんなにも人のために何か出来た事にサンタ以上に優越感に浸ったのだ。

空は澄んでいる、それは心の色を表すかのように。


翌週、サンタの僕らにサタンのような顔をしたマンションの管理人に先生方に親に単身赴任のおっさん。

色んな方からサプライズなお叱りをもらいたった数ヶ月で秘密の基地はあえなく終わった。

2012年、帰省しふとあのマンションを見ると周りにはもっともっと高いマンションが建ち、あの単身マンションは無くなりコンビニになっていた。

あの秘密の基地はどうなってるんだろう。

あの頃の景色とずいぶん変わった街並みは僕を覚えていてくれるだろうか。
あの屋上から見下ろす事はもうできない。
あの柵を登る事はもうできない。

秘密の基地。

そんなドキドキ感の場所

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第57回アッパーズライブでお待ちしております。

もちろん公にしてください。