何とか無事にドレスと手袋を拝借できたものの、私は自分のあまりのグズっぷりが情けなくて、マリリンに謝った。
「ごめんなさい…。私、全然役立たずで…。」
マリリンはきょとんとして訊き返した。
「え?だって何も失敗してないわよ?」
「でも…早くしなきゃいけなかったのに、全然反応鈍かったし…。呆れたでしょ?」
「早くしようと頑張ったんでしょ?」
「はい…」
「一生懸命頑張った結果ならしょうがないわ。遅いのなら私なんか人のこと言えないわよ。昔どれだけ現場に遅刻していったかわからないし。まぁ、私もあれはあれで精一杯頑張ってたんだけどね。
あ!あれか…また日本語と英語の違いだ。もしかして…。私が『早く!』って日本語で言っちゃったから、本当に早く動かなきゃダメだったって思ってる?」
私が少しきょとんとした後曖昧に頷くと、マリリンはと少し慌てたように早口でまくしたてた。
「日本語の『ああしなさいこうしなさい』ってどうやら結果的に表に出てくる行動に対して命令するみたいなのよね。違うかしら?」
表に出てくる行動…?
「英語で命令するときってね、人間の頭の中に対して働きかけてるのよ。そうね…パソコンにコマンドを入力するでしょう?あれと同じ。こうしなさいって指令を出して、そしたらその通りに動いてくれるだろう、っていう期待を持って命令をする訳よ。」
「パソコン…やるんですか?」
私は
「当たり前でしょ。こっちの世界でも今やパソコンは必須アイテムなんだから。スカイプもやるわよ。そうそうパソコンで思い出した、私気付いたらこっちの世界に来ちゃってたから死んだ時の状況をいまいちよく覚えてなくてGoogleでかなり調べてみたの。たぶんマフィアのジアンカーナの手下に座薬突っ込まれて死んだんだと思うけど、もう最悪じゃない?検死した日本人のお医者さんはたぶん誰かに買収されてたんだろうけど、まあおかげで結果的に謎の死を遂げたってことになって良かったかも。
一番ムカつくのは、ロバート・ケネディが私と別れようとして、私が引き留めるために秘密をバラすって脅迫して、それで彼に殺されたって説ね。あんな男をそんなお粗末な手で引き留めようとしたと思われるなんて!ほんと失礼しちゃう。私がそんなバカな女に見える?あの兄弟は揃いも揃って女の扱いが酷かったんだから。もっと早くさっさと振ってやればよかったんだけど、ジョーがあんまりストーカーみたいにしつこかったから、とりあえずロバートと付き合ってることにしておけばあんまり追っかけてこないかと思って。
そうそう、私何かジョーと再婚することになってたらしいんだけど知ってる?私全然覚えてないの。酔っ払ってつい根負けしてyesって言っちゃったのかしら。yesなんてベッドの上でなら誰でも言うのにね!」
マリリンは大口を開けて笑った。彼女は優しいから…私が気を遣わないように一生懸命気遣ってくれてるのが、いくら鈍い私でもわかった。
「ええと何の話だっけ、要するにね、日本語で「こっち向け」って言われたら、別に向きたいなんて思ってなくても顔だけとりあえずこっちに向ければいいわよね?だけど英語の”Look at me!” は…そうねぇ、厳密に訳すなら、「こっちを向こうという意志を持て」みたいな感じかしら。同じ命令でも、日本語は人の外側を動かそうとして、英語は人の中身を動かそうとするのね。」
私はしばらく考えた後、「へえ…!」と間抜けな返事をした。そんなに違うなんて考えたこともなかった。いや、でも、そうか、私とIすら全然違うんだから、そりゃ人に命令する時だって違うよな、と目を白黒させながら考えていたら、
「いいことを教えてあげる!」とマリリンがとびきりの笑顔を見せた。ちょっと得意気だ。
「つまりね、日本語で命令されたら、あなたがどう思っていようとあなたの勝手で、英語で命令されたら結果がどう出ようと知らないわ!でいいのよ。ね、ちょっとは気が楽になった?」
マリリンは続けて言った。
「あなた、ちょっと気を遣い過ぎよ。Relaaaax!」
『お熱いのがお好き』と完全に同じの、甘―い口調で言われた。すごく嬉しかったけどこれは…リラックスするよりも興奮してしまうぞ。私女だけど。