辛いなあ。物語の終わりを見届けることは。

 

元々映画やドラマは好きなのだけど、タイドラマにハマって以来、とにかくすごい勢いでドラマを観ている。そして当然のことながらどの作品も「最終回」を迎える。

ものすごく好きで、毎週楽しみにしていて、何度も泣いたりもして、途中でもう一回最初から見直したようなドラマでも、その最終回は軽やかにきれいな色のリボンに結ばれてストンと心の中に仕舞われるものがある。ここ最近で言えば『My School President』『Only Friends』『Last Twilight』などがそうだった。

最終回を迎えても終われない気持ちで何度も箱の蓋を開けたり閉めたりしては何かを探し続けようとしてしまう作品が『KinnPorsche』『愛の香り』『Play Boyy』だった。

きれいに終わったのに、あのパパンダーオの村にティアンとプーパー隊長たちキャラクターは永遠に残ったまま、セットは解体され、演じた俳優も監督も物語を降ろしたのだなあと思うととてつもなく喪失感を持った『1000stars』もある。ああちょっとその感じに似てるな、今の気持ち。

それが今日、『The Miracle of Teddy Bear』を見終わったばかりの私の気持ちである。

ああ。物語は終わった。

ナットの心の中にはタオフーはずっと存在している。

そして私の心の中にも、ナットとタオフーはきっといるだろう、まだしばらくは。

いつしかその姿は薄らいでいくのだとしても。

 

『The Miracle of Teddy Bear』

2022年3月公開作品 全16話

監督  Paajaew Yuthana Lorphanpaibu 

キャスト

ナット Job Thuchapon Koowongbundit

タオフー Inn Sarin Ronnakiat

 

あらすじ

ドラマの脚本家ナットは母親マタナーとふたり暮らし。部屋には「大切な人にもらった」テディベア、タオフーがいる。ところがある日突然、そのタオフーは人間となってしまった。記憶喪失の不審人物としてナットに追われるタオフーだが、心を病んでいるマタナーはタオフーに家に残るってくれるよう望む。

そのようなファンタジー展開かと思いきや、ナットを取り巻く人間関係が中心となったミステリーの要素も強い作品である。

出演者は他に、ナットの親友ケーン、ケーンを愛するソーン、ナットとケーンが働くドラマ制作会社の同僚プリップ。そして彼らの家族やナットが昔好きだった先輩などなど。

 

オーナメントオーナメントオーナメント

 

とりあえずこの作品のネタバレになることは書きません。未見の方はこれから一つずつ物語の広がりを楽しんでいってください。

ネタバレなしで感想を書いていきます。

前半は話数が重なるにつれ、この作品の中に流れている登場人物たちに共通する思いは「自分は誰からも必要とされていないのではないか?」という不安だということがわかります。

こう書くと人によっては「青臭い」「未だにそんなことを考えるの?」と思うかもしれません。しかしこの問いかけは思春期だけでなく人生の幾つかのステージで何度も襲ってくるのです。

誰からも愛されない自分は?

仕事で必要とされない自分は?

生物として子孫を残すことができない自分は?

そして老いていく自分は?

作品の中で彼らが抱える孤独な苦しみは観ている私たちにとって密接なものです。特に最後の、老いていき自分をコントロールできなくなる自分に存在する理由があるのか。これは誰でも直面する問題です。

その彼らそれぞれが、自分が必要とされる理由を見つけ、自らの存在を肯定していこうとする、これはそういう物語になっています。

 

生きていく過程は、大切だと思っていたものを一つずつ失っていくことを経験することでもあります。それと同時にそれがどんなに不可能だと思えても、大切なものを得るために願ったり希望を持ったり前に進もうとしていくものでもあります。

物語の後半は、絡みあった出来事がほどかれていき、そしてほどかれることで痛みを伴う真実が少しずつ露呈していきます。その中で、ナットの側にずっとあり、悲しい時に抱きしめていたテディベアであったタオフーの無垢な表情と、どんなことがあってもナットの幸せだけを願う姿が、いつまでも心に残り続ける作品です。

 

前半、ナットの親友ケーンはナットの片思いする同僚のプリップの髪を掴んだり、ケーンに恋するソーンに対してのあまりのつれない態度、またナットがキレやすくて母親やタオフーに対して怒鳴るシーンなどがキツく感じました。ただ後半にそれらの理由が明らかにされていったときにようやくそれらのシーンに納得していく構造になっています。とは言えオープンリーゲイやトランス女性の監督による作品を多く輩出する近年のGMM作品であれば、この辺りの表現はもう少し違っていたものになったかなと感じる演出表現がいくつかありました。

しかし脚本面では、カミングアウトに関することやゲイを取り巻く社会について、そしてヘイトとそのヘイト発言に対する返答などは、非常に見るべきものがあります。ていうか是非見てほしい!!

とても啓蒙的であり、こんな作品がCH3というタイの有名テレビ局で制作されたということが本当に素晴らしいし、そして羨ましい。

 

これは日本ではU-NEXTで配信されています。

私はタイドラマにハマった2020年、『Why R U?』を観るためにU-NEXTに入りました。その後タイBLドラマはすべて観ましたが中でも『Lovely Writer』『Not Me』『KinnPorsche』などの名作があり退会する暇がありませんでした。しかしいつからかタイドラマの配信が減り、新作が来てもポイント制(しかも視聴期間が短い!)という状態が多く、しばらくU-NEXTから遠ざかることになりました。

この『The Miracle of Teddy Bear』もわりと長い間、ポイント制でした。しかし現在は見放題です。本当はいろんなプラットフォームで多くの人に見てほしい作品です。ただほんと、この作品のためにU-NEXTに入ってもいいと思いますよ!

・・・とこうして誰かにこの作品をオススメすることで、今、心の中に空いてしまった穴から気を逸らそうとしているわたしです。

そう。人って、ものすごく辛いことも悲しいことも、そして楽しかったことも、時々こんな風にちょっとだけ気を逸らしながら違うところをちょっと眺めたりして、そのうちに少しずつ忘れたりしながら過去のいろいろをひとつずつきれいな箱の中に仕舞っておくものなんですよ。『The Miracle of Teddy Bear』は、そんなお話なんです。

 

 

タオフーに、ナットに会いたくて、彼らのIGのアカウントをフォローしたんだけど、(@inpitar/@jobbiijob)俳優であるその彼らの写真はもう、タオフーではなく、ナットではないのよね。そんなことにも物語が完結したこの喪失感が募るわ。

でもInnくんはGMMでの新作『Wandee Goodday』が控えてるから、また新しい顔を見せてくれるのを楽しみにしている。

心の中のタオフーは大切にしながらも。