「誕生日とかにサプライズなんてしないでね!」
友人たちに言い放った私。まだ夏の頃である。
私の誕生日は12月で、そしてその誕生日で還暦を迎えるのだった。
50歳の時は友人たちを集めて、大好きな歌(「峠のうた」「Happy Together」)を即席のバンドを組んで歌い、川上未映子さんのエッセイを朗読した。
でも還暦。節目だから何かやろうかなあと考えてはいたけれど何も案が浮かばず、それで特に何もせずに過ごすつもりだった。どうやら私は誰かに委ねて祝われるのが苦手なんである。やるなら自分で企画して、自分で何かをやらないと楽しくないようだ。
しかしだ。「サプライズなどしないで」と言い放った翌日、突然アイデアが降りてきた。
1年前にある会で踊った「豪華ネェサン」をまた踊ろう。
2018年に書いたエッセイを朗読しよう。
そうだ、みんなにこのわたしをテーマに短歌を作ってもらうのはどう?
そしてみんなに2023年に観たBL作品のBestを語ってもらおうか。
約15分で脳内で企画が決まり、すぐさま友人各所に連絡をして全員に参加OKの返事をもらった。早い。我ながら仕事が早いぜ。
還☆暦祭り1部冒頭で話したのだが、こどものころからずっと「私はあまり人から愛されない人間なのだろう」と思ってきた。そしてそれは仕方のないことだと思って生きてきた。もしも私のことを誰かが好きになってくれても、いつかきっと離れていくのだろう。なんでかわかんないけど、私はそういうふうに生まれたのだと思ってきた。
家庭の中には居場所がなかった。
でも仕事は私を助けてくれた。10代の頃から仕事場がとても自由でいられたし、好きなことができる場所だった。そして私は愛される側の人間ではなく、愛する側の人間だ。うん、わかってたよ。それは10代の頃からよくわかっていた。その私にはこれまでも、そして今の仕事もすごく、すごく合っているのだと思う。
還☆暦祭り、第1部、第2部ともスタートは「豪華ネェサン」。
2023年2月、私の友人がファミリーシップ制度を取った日にうちの店で記念パーティを開催。そのオープニングとエンディングで友人と共に踊りました。これが本当にいい曲で、実は曲をかけながら一人で練習しつつ、終盤で何度か泣きそうになっていた。
今回も同じメンバーで踊ることに。
もうねー、ほんとに楽しかったーー!
1部2部共にそれぞれ飛び入り参加もあり!
そして2018年に刊行された祥伝社黄金文庫「名古屋カフェ散歩」(川口葉子・著)に掲載された私のエッセイ「いつしか街はかわっていくけれど」を、1部は私の古くからの友人ふたりと、そして2部では豪華ネェサンを一緒に踊った友人ふたりと共に朗読しました。
これは、変わっていく日々の中に存在する小さなカフェを営みながら思う変わらぬ気持ちを綴ったものです。2部では、同じ自営業者でカフェや美容業を営む友人たちが聞きながら泣いてくれて本当に驚きました。そのエッセイは苦労話を書いたわけではなく、ただ、静かに誰かを待っているきもちを書いたものです。
「カフェは、美味しいごはんと、ここに来てくれる誰かと、今はここにいない誰かの思い出と、待っているわたしたちでできている」
ずっと変わらない気持ち。
1部はこのあとに皆さんからいただいた短歌のご紹介。
参加者皆さんからメールで頂いた短歌または川柳は42作。
それらを短冊に書き写して気付いたことが。
私は「テーマはわたしを褒めることよ」って言ったんだけど、みんな自分のことを書いてる!!「それ、あんたのことやん?!」って句ばっかりだったよ!
面白いねえ。書いたものにはみんな、その人の姿が表れてる。笑顔について書いてる人はとても笑顔が素敵な人ばかり。縁について書いた人は普段から人と自然に繋がることができる人が殆ど。
友人の軽快なMCの中、進んでいき、最後に選者が大賞を選びました。
全42作品の中で選者が大賞に選んだのが
「袖を断つをとこを愛づる女丈夫のおはす名古屋の店は弥栄」
大賞には『マタハリのタイカレー一年分』という賞品でしたが、この句の作者は遠方のため、もう1作選ぶことに。
次点が
「縁結(えにしゆう)曼荼羅の此処マタハリのりりこが紡ぐ世界と文化」
この作者にタイカレー1年分券を差し上げました。
毎月待ってるね!
りりこ賞は?と問われましたが、純粋に句としていいなあと思ったものが幾つもあって絞れませんでした。以下、良いなと思った句を少しだけ紹介しておきます。
大切に一つ握ったビー玉は今もあなたの手の中にある
咲き続け舞台の上で咲き続け 枯れることすら忘却の空
保母さんに話をねだる子らのよにマタハリの夜に集う雛たち
アイデアは次から次に閃きてだれかきいてと拡ぐ鼻あな
難儀など楽しさに変え軽々と飛びこえてゆく君がまぶしい
あのことは秘密だけれどありがとうそのやさしさで救われました
2部では「豪華ネェサン」ダンス・「いつしか街はかわっていくけれど」朗読のあとに、2023年に視聴したBL作品・クィア作品の中での個人的ベスト作品を参加者全員に発表してもらいました。
おひとりずつ前に出てもらい、話を伺ったのですが、本当にみんな、好きな作品がそれぞれですごく面白い!これは特に「今年の大賞」を選ぶことが目的ではなく、ただそれぞれの人の推し作品とツボを聞くのが目的でした。欲を言えばこれを基にまたテーブルトークなどが出来ればよかったなあ。
1位に選ばれた作品
『My School President』『愛の香り I Feel You Linger in The Air』『きのう何食べた2』『Laws of Attraction』が数人被り、あとはいろいろバラけました。
2位に選ばれた作品
さらにバラけました(笑)
『Moonlight Chicken』『僕と幽霊が家族になった件』『Only Friends』『愛の香り I Feel You Linger in The Air』が数人の人が被りました。
3位以降に選ばれた作品
『赤と白のロイヤルブルー』を挙げる人が何人もいましたね。
観る人の数だけ、推し作品がある。そしてそれが好きな理由もみんなそれぞれ。
普段は「うんうん、わたしも!」って言いがちだけど、実はこんなに好みって様々なんだなっていうのがね、すっごく面白いと思うの。
その後、友人による台湾BL作品のおススメ紹介や、参加者のおひとりと私が『Only Friends』についてトークを行い、13時から始まった「りりこ還☆暦祭り」は2部制で22時30分を以って終了しました。
私のメイクをしてくれ、短歌の選者も受け持ってくれた尊敬する年上の人生の先輩、僅かな稽古ですぐに息があってしまった古くからの友人達、ダンスに朗読、受付にMCとこの企画の最初から最後までしっかりとサポートしてくれた、タイBLを好きになって以来出来た新しい友人ふたり。そしてこの還☆暦祭りに足を運んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
さあて。次はなにをやろっかなー!