まずは『Hidden Agenda』Telasa配信決定おめでとうーーー!(2023年8月2日現在)
7月半ばからYoutubeで『Hidden Agenda』を見始めたことで、途中で視聴が止まっていた『Step By Step』をこの数日で集中的に見ました。両作品ともあの『Lovely Writer』で熱狂させてくれたTee監督作品だからです。
いろんな作品を見るたびに好きな俳優が増えるし、そのたびにその俳優のIGをフォローしては見ることが日課となる。でも私の場合はそれが長くは続かない。日々の限られた時間を何に費やすか。となると、俳優個人の写真や情報を追うことよりドラマという物語を見ることを選ぶからです。その作品選びの基準は、「好きな俳優の出演」ということもあるけれど、誰が監督をしているか、が私の場合は重要なポイントになっています。
『Hidden Agenda』はそれぞれ俳優として、そしてCPとしてのケミにおいてもポテンシャルの高さに期待が持てるJoongDunkをTee監督はどのように見せるのかにとても興味を持っています。
そして『Step by Step』はUpくんのJust Upが共同出資したことや、『Lovely Writer』に続くUpくん出演作ということもあり、始まる前からずっとその完成を楽しみにしていた作品でした。
そんな『Step By Step』を全部観終わった感想としては、残念ながらすごく面白かったとか印象深いとか、そういう作品にはなりませんでした、私にとっては。
何しろ『Lovely Writer』は2021年に見た多くの作品の中で少なくともBest3に入る作品でした。Tee監督のその前作である『TharnType』もタイドラマ見始めて間もない頃だったこともあり、ものすごくのめりこんだし忘れられない作品で、どうしてもそれと比べてしまうということもあります。
けれど『Step By Step』の中でとても良かったと思える部分は幾つかあり、なんというかこの作品は「なにかが惜しい」と思えるものでした。
まずは良かったところを書いていきます。
会社設定 ①人物について
かつてBLの面白さは、男性中心の社会・・・例えば会社、そしてヤクザ社会、または警察組織などなどを舞台として話が広げられるところにあると思っていました。ところがタイBLで描かれる会社組織には、女性CEOや重要かつ有能な女性社員が多く描かれていて、「バリバリの男性中心の組織の中のBL」という設定は随分と変わってきています。いや、あえてタイのドラマ制作側はその辺りを意識して変えてきています。そういう部分、最近の日本ドラマはどうなのでしょう・・・?(観てないのでわかんないのですが)
『Step By Step』では、男性だからこうで女性だからこうだ、という単純な形ではなく、様々な社員の姿を男女問わず描いているところに好感が持てました。
メインであるデジタルマーケティング部の中では
●噂好きの古株女性社員
●古株女性にすぐ迎合する噂好きの女性社員
●プレゼン資料作成のアドバイザーなどを務める、必要以上に群れることはないが折衝能力の高い女性社員
●セクハラをする男性社員
●特に実力もやる気もないふんわりした男性上司
●特に群れることはないが折衝能力を買われている男性社員
●ゲイであり上司と部下の間を繋ぐ男性社員
・・・などなどいろんな人が描かれている上に、さらに外部のクリエイター組織、俳優などなどいろいろな立場のいろいろな人物を丁寧に描こうとしているところが興味深かったです。
AeとBeamに部署の写真について愚痴るPat。そしてJengとの出会い。
(EP1 High Light)
会社設定 ②仕事について
多くのビジネスマン設定のBLドラマでは仕事に関することは出てきますが、だいたいがそれは恋愛関係を描くためのツールである場合が多いです。親密な関係を描くための残業や出張、吊り橋効果的心理状況を描くための仕事における困難とその克服・・・など。仕事に関する細部はリアリティからはかけ離れている部分が多いです。キャラ立ちしてるが何をやってるのかよくわからない少人数の同僚たちと、恋愛を描くための添え物程度の描かれ方の仕事。
そういうものが多い中で『Step By Step』では仕事に関する比重が高かった点は他の作品と一線を画しています。「仕事も恋愛もそれぞれ大切な人生の一部」として描こうとしていることにとても好感が持てました。
●会社とその中の人間関係はどうあるのが好ましいか。
●会社の中における自分の部署の立ち位置。
●その部署内におけるそれぞれの社員の立ち位置。
●クライアント側に対するプレゼンテーション、取引先との共同作業。
●仕事は人生の大きな部分を占めるけれど、それだけでは個人のライフ・クオリティが下がってしまうと、「クオリティ・オブ・ライフ」についてもたびたび言及。
●上司と社員の関係性。
こういったことを丁寧に描こうとしています。人間関係は古くからの付き合いのものはあれど、結局はそれが後々仕事に繋がっていくところも、とてもリアリティある描き方だと感じます。
『Step By Step』の会社設定、部署はデジタルマーケティング部。
この時代において興味深い部署です。それと関連するように昨今のSNSの問題も盛り込まれて行っています。ただ「デジタルマーケティング」に関しては、その情報の収集や整理・分析についてはドラマの中ではそれほど印象的には描かれず、どちらかといえばそのアウトプット―ーークライアントへのプレゼンとか、マーケティングによって得た結果でオンライン広告を制作することにフォーカスを置かれていたように思いました。欲張りすぎかもしれませんが、私たちが普段当たり前に使用しているスマホやPCから情報を得ながら、どこかに情報を渡している、このブラックボックス的な部分も「デジタルマーケティング」という設定を活かして描かれてたらいいなーとちょっと思いました。
3人
「絶対的ふたり」という関係性を重視しがちな恋愛ドラマ。多くのBLもそうです。
幼馴染設定。運命のふたり。出会うべきだったふたり。そして一生を添い遂げることを約束するふたり。
私などはそこにうっとりするよりもちょっと窮屈さを感じてしまうのです。
そんな中、『Step By Step』では「3人」という関係を描いています。
メインは会社CEOの長男であり、現在はデジタルマーケティング部部長であるJengと、そこにインターンとして入社し、新入社員となって頭角を現すPatのふたりの物語です。しかしそこにそれぞれの「過去の恋人」の物語が絡んできます。Jengの元彼は僅かなシーンですが、アドバイスをくれる良き友人としてちらりと登場します。そしてPatの元彼でUpくん演じるPutの存在の仕方は非常に興味深いものがありました。
(ここから先はネタバレです)
PatとPutはすでに別れています。どうやらPutがPatを傷つけたうえで去っていったようです。しかしPutはPatとよりを戻そうとしている上に、Patはオンライン広告制作のチーフとして、そしてPutはその広告映像の出演者として出会うことになります。最初はそのPutを強く拒否するPatですが、なんとPatはPutと一度、よりを戻すんですよ。
あんなに素敵なJengが、物語の最初からずっとPatを見守り、陰ながら支え、そして精神的に幼なさを抱える新入社員への恋に身悶えするほど(でも上品さは損なわず)苦しんでいるのに、PatはPutとよりを戻し、かつてのようなラブい関係になるのです。ところがふとキスのときに「コレジャナイ・・・」感が沸き上がり、今度はPatから別れを告げるわけです。
しかしPutは永遠にPatの前から消えるわけではありません。物語の最後、PatがJengの元に向かうための最後の一推しをしたのはPutの言葉でした。
決して「元カレ」がふたりの恋愛の物語の当て馬ではなく描かれているところが良いです。だって、今の恋が「それが最初の恋」であることは少ないわけでしょう?いろんな人に出会っていくわけですし、ひとつの関係が終わったからと言ってすべてが白紙になってリセットされるわけではないのですから。
他作品では多分、あまり描かれない、元彼ともう一度よりを戻してまたラブい感じになるシーン
(EP7 High Light)
象徴的な「3人」は他にあと2つありました。
まずはPatのお姉さん的存在のAe(大学での先輩、みたいな関係だったのかしら?)、Aeと付き合っている映像制作をしているKanun、そして彼らの友達のBeam。
AeとKanonは同棲しているし、そしてAeは妊娠します。そのAeにBeamは産婦人科に付き添うし、Aeの生活の中にBeamの存在はとても近いのです。そして結局、BeamはAeのことを好きだと告白します。しかし彼がその告白するよりもずっと前から気持ちに気付いていて、受け止めたままで友達として一緒にいるAe。決して「ふたり」を選ぶことで好意を持つ他の人を排除せず、最適な距離と関係性を探し続けることをさりげなく描いているところは、この作品のとても大きな部分ではないのですが、いくつかのとても素敵なシーンとなっています。
そしてJengの弟Jaabと、Jaabが恋していたJaabの同僚のJenです。
JaabはJenへの気持ちをあまり隠していませんでした。しかしJenには最初からMonという彼がいる、という設定です。Monはほとんど登場しませんが、どうやら優しくていい感じの男です。Monという彼を持つJenとJaab。最初はその3人という関係性ですが、Jenが何故かMonと別れ、そして大きな仕事を終えた夜、JenはJaabとキスします。これでふたりの関係が始まるかと思いきや、彼らの関係はいきなりギクシャクしてしまうのです。(キスのあとで過剰にギクシャクするのはTee監督の得意なパターン?!)
結局、JenはJaabから去り、JaabはJenへの思いが立ちきれないままなのですが、別の男の子と付き合い始めるのです。
作中、もっともエモくてそして切ないキスシーン
(EP5 High Light)
Tee監督はそれぞれの恋愛を含めた関係を、幾つかのパターンでリアリティを持って描こうとしているように感じました。
人が、ひとりの人を選ぶためにその過去も、周囲の人もすべてが消えてなくなるわけではありません。2もあるけれども、3もある。3のなかの2もある。5もある。9もある。
世界はそんな風に広がっているものだということを描いていることに私はとても好感が持てました。
キャストの魅力
『Step By Step』の魅力の大きな部分となったのは、主演Jengを演じた Man Trisanu Soranun でしょう。現在32歳です。主演はまだこれが2本目のようです。しかし品があり堂々としたオーラがあり優しさを兼ね備えたManの抜擢はこの作品にとって最も重要なことだったように思います。
『Lovely Writer』でお馴染みとなった俳優が多数出演しているのも魅力でした。また若手でこの作品でデビューとなったBen(Pat役)やSaint(Jaab役)にもこれからを期待したいと思います。
ではここから「ここがこうだったらなあ・・・と思った点を書きます
Jengの大人の魅力に対してPatの一生懸命さと未熟さを配置したのかもしれませんが、未熟なところにノリきれなさを感じてしまったのです。
Tee監督は去年公開の作品『Something in My Room』がTELASAで配信になりましたし、最新作『Hidden Agenda』の配信もスタート。さらには今月半ばに『I Feel You Linger in The Air』も始まります。
いろんな作品を見ることで監督色もよくわかっていくため、どれもとても楽しみです。