黄金週間の間隙を突いて敢行した「温泉 × (かける)ワイナリー」プロジェクト、先週はワイナリーの話しかしなかったので、ここでは温泉についての忘備録を少々。

 

今回最初に訪ねた貝掛(かいかけ)温泉は、江戸時代から「眼の湯」として知られているそうです。そのわけは、お湯にホウ酸が含まれているからとのこと。そう言われると、亭主も子供の頃に「ものもらい」(結膜炎)にかかるとホウ酸水で目を洗っていたのを思い出しました。

 

 

ただし、お湯の成分表示を眺めると、検出された成分として挙がっているのは「メタホウ酸」という物質で、こちらは「非解離成分」とあります(つまりイオンとして溶けていない)。なので、実のところは湯の花のようなものかも?

 

むしろ主成分はナトリウム・カルシウム塩化物で、これらも含めた塩化物全体ではお湯1リットルあたり2グラム(0.2パーセント)とかなりの量が溶けています。

 

まぁ、いずれにしても温泉の効能は溶存成分だけで決まるわけでもない(〇〇に良いと言われればそれだけでプラセボ効果も働く?)ので、無心に湯を楽しむにしかず、です。

 

 

ちなみに、日本には「三大眼の湯」というものがあって、他の2湯は、福島県の微温湯(ぬるゆ)温泉、および神奈川県(箱根)の「姥子(うばこ)温泉」だとか。

 

今回泊まった温泉宿は、いわゆる秘湯の一軒宿(「日本秘湯を守る会」のオリジナルメンバーだそうです)。地図で見るとJR越後湯沢駅にほど近く、すぐにもたどり着けそうに見えますが、国道沿いに車を走らせていた亭主は宿への進入路を見落としてしまい、引き返しながらカーナビと首っ引きで入り口を探すことに。ようやく入り口らしき分岐を見つけ、車がすれ違うこともままならないような狭い一本道を辿っていくと、今度は幅員が車幅ギリギリでしかも随分と長い橋に出くわしました。見るからに年季が入っている橋で(昭和42年敷設の銘を見たような…)、車で通れるものか不安になったものの、通行不可という表示もないので「ままよ」と恐る恐る渡ってみると、その先に宿がありました。それにしても、宿の近くに結構な数の車が駐車しているのにびっくり。

 

 

庄屋づくり風の館内は広々としていて、部屋の内装も含めて比較的最近手を入れた感じで快適です。(今回は家族4人で泊まるということで、宿で一番広い部屋を割り当てて頂いたとのこと。)米どころに近いとあって、食事のウリは南魚沼産のコシヒカリと山菜料理。もちろん入浴施設も充実しています。源泉の温度は36℃ぐらいとちょっとぬるめなので、「あつ湯」の湯船は加温した源泉を掛け流しています。が、ぬる湯に長時間浸かっていたい夏場には、源泉そのままの湯に浸かっていれば極楽だろうと想像できます。温泉と食事を堪能した翌朝には、五月晴れの青空の下で付近の周辺を散策。一軒宿ということで、温泉街を散策するような楽しみはありませんが、自然に包まれて静かな時間をゆったりと楽しむことができました。

 

 

さて、プロジェクト2日目は松之山温泉です。ここの源泉は「化石海水」という極めて珍しい由来の温泉だそうです。日本の温泉の多くは火山性で、火山周りの地下に浸透した雨水が高温に熱せられて湧出する、というものですが、松之山温泉は近くにそのような火山がないことや、塩分濃度が異様に高い(なんと~1%かそれ以上、そのままパスタのゆで汁に使えそう…)ことから、この辺りは太古の昔(~1200万年前ごろ)には海であったものが、地殻変動により海水が地下深く(2-7 kmあたり)に閉じ込められ、地熱で熱せられて噴出した「ジオプレッシャー型」温泉ではないかと考えられているとのこと(詳しくはこちらのサイトで)。

 

このような由来もあってか、お湯は前述のように塩分濃度が高いだけでなく、メタホウ酸の濃度も極めて高く、ウィキペディアの記事によれば1リットルあたり349.5 mgと日本一とのこと(ちなみにこの値は、先の貝掛温泉のそれの10―15倍に相当)。

 

というわけで、松之山温泉は群馬の草津温泉、神戸の有馬温泉とともに「日本三大薬湯」と呼ばれているそうです。(それにしても我々日本人は「三大〇〇」がホントに好きですねぇ…)

 

貝掛温泉とは対象的に、松之山温泉は(小さいながらも)温泉街を形成しています。今回投宿したのはその中心にある「ひなの宿ちとせ」。広い玄関で靴を脱いで上がると、その先は廊下も含めすべて畳敷きになっており、履き物なしの素足で館内を移動するというスタイル。内装も新しく感じられ、客室は畳敷の上に洋風ベッドが並ぶなど、明らかに海外からの客を意識した作りになっています。

 

まだ夕方4時と少し時間があったので、部屋に荷物を置いたところで外出し、温泉街をぶらぶら。とはいえ温泉が気になって仕方がない亭主は、散策の途中で家人達と別れて宿に戻り、大浴場でお湯に浸かってリラクセーションモードに。

 

湯に浸した指を口に入れると、海水(塩分濃度が3.5パーセントもある)の塩辛さに比べればずっとマイルドですが、はっきりと塩味が感じられます。これと同じ塩分濃度1パーセントのお湯を自宅の風呂で再現しようとすると、およそ200リットルの湯舟のお湯に対して塩が2キログラムも必要、というとんでもないことになりますから、この温泉がいかにスゴいかが想像できるというもの。

 

また、この源泉は噴出温度も高い(80―90℃)ことから、発電や融雪にも大いに活用されているとのこと。特に当地が日本有数の豪雪地帯であることを考えれば、自然エネルギーで道路の融雪ができることの恩恵がいかに大きいかが容易に想像できます(まさにSDG’s)。

 

 

というわけで、今回もまた「人類にとって温泉が如何に大きな自然の恵みであるか」を大いに実感する旅となりました。