亭主も含め、クラシック音楽(古楽は言わずもがな)ファンの大多数は、昔はLPやカセットテープ、それ以後はCDなど、もっぱら物理メディアによって音楽鑑賞を行って来ました。(ライブ音楽会やFM放送では曲目の選択肢が極端に限られるので、聴きたい音楽を自由に聴こうと思えば録音メディアに頼るしかないことは現状も大差ないところです。)

そんな風にCDに依存するクラシック・古楽ファンが、多分あまり知らないのがいわゆる「CD不況」、この10年以上にわたる音盤市場の縮小です。

実は亭主も最近までほとんど意識に上ることもなかったのですが、昨年のBBCニュースが表題のようなタイトルでCDの売り上げの減少を伝えているのを目にし、少し調べてその凋落ぶりにびっくりしました。
 


この棒グラフは米国でのCDの売り上げを年次ごとに示したもの。ちょうど世紀の変わり目を境にして年を追うごとに減少している様子がわかります。また、その年次変化はほぼ左右対称、つまり2000年以降の変化がちょうど1983年から2000年までのそれを時間的に逆転したような振る舞いをしています。

いうまでもなく、これらCDは全てのジャンルを含むもので、クラシック音楽はそのごく一部を占めるにすぎません。どの程度か当たりをつけるために、今度は日本レコード協会の資料を眺めてみます。

 

 

他の資料も併せ読むと、この棒グラフ中で洋楽とある部分の約4割がクラシック音楽と思われます。グラフから目分量で見積もると、CD全体にクラシックの占める割合は大体4.5%ぐらいになります。(それにしても、日本の過去10年の洋楽の落ち込みは6-7割、米国全体のそれは8-9割と凄まじいものがあります。)

CDがこのように急激な凋落を招いている理由として最近語られているのが、ネット環境を前提にした定額ストリーミング配信(いわゆるサブスクリプション)と呼ばれるサービスです。

オンライン配信というと、亭主はすぐにMP3ファイルのダウンロードを想像してしまいますが、ストリーミング配信ではデータを保存しない(データはサービスを提供する側のサーバ上にのみある)ことがダウンロードとは異なります。少し見方を変えれば、受け手は数千万曲とも言われるサーバ側の巨大な音楽データベースを自前の音楽ライブラリとして使うことができます。さらに、定額制ならば聴きたい曲をいくらでも聴き放題となり、個人の音楽ライブラリは不要となるわけです。そこでさらに統計データを探すと、以下のようなグラフに行き当たりました。

 


このグラフ中、2000年ごろをピークにした山は前出のCD売り上げで、それ以外のメディアでの売り上げの年次変化とともに示されています。これを見ると、直近2015年ではCD、ダウンロード、ストリーミング関連がほぼ同程度ずつを占めている感じですが、すでにダウンロードは頭打ちか減少傾向を示しているのに対し、ストリーミングは伸びています。

この図の左の方を眺めると、CDが登場して10年経たずにLPがほぼ消滅したことがわかります(最近また少し復活しているようですが)。なので、ストリーミングによりCDが消滅する日もそう遠くないと言えるかも。(そういえば、このところ亭主が中古CDショップの世話になることが少なくないのもこの状況と関係しているのかもしれません。)

ここで重要なポイントは、この変化が音楽再生における「物理メディアからの解放」を意味するだけでなく、私達の音楽の聴き方に不可逆的な変化をもたらしつつある、という点です。

物理メディアにおいては、それを専用の再生装置にかけてスタートボタンを押し、トラックを順番に再生しながら聴くというのが主流でした。そこには「音盤を回す」という身体行為そのものに伴うある種のマインド・リセットがあったと思われます。

ところが、iPodなどの登場でトラックごとにランダムに再生する聞き方も可能になっていたところに、ダウンロードやストリーミングでの「配信」が主流になることで、人は自分の好みの音楽の「プレイリスト」だけを持ち歩けばよくなったわけです。

もともとこのような「プレイリスト」的な聴き方に馴染みが悪いクラシック音楽は、この流れから取り残されてしまう可能性が少なくないと思われます。

 

その行き着く先がどのような世界なのか、亭主にはまだ見当がつきませんが…