オルガヌムの魅力--ペロティヌス | 未音亭日乗

未音亭日乗

古楽ファンの勝手気ままなモノローグ。

昨年暮れにViderunt omnes(地上のすべての国々は)に衝撃を受けていらい、亭主はペロティヌス(ペロタン)や同時代の音楽家の手になる多声音楽にハマっています。折しも先週の朝のFMは今谷先生のガイドによる12世紀-14世紀の中世フランス音楽特集。亭主にとっては何とも絶妙なタイミングとあって興味津々、エアチェックの上じっくり拝聴しました。

分けても初日にオンエアされたポール・ヒリヤーとヒリヤードアンサンブルによるペロタンのオルガヌム2作品に強く惹かれた亭主、早速例によってネット上でCD探しをしたところ、いとも簡単にアマゾンでヒット。しかも「在庫あり」と表示されていたので思わずワンクリック購入となりました。

 


ところが、録音に関する情報を見ようと、到着したCD(実にシンプルでモダンなデザイン)の裏面を眺めたところ、なんとWest Germanyで製作されたと記載されているのを見つけてびっくり。録音は1988年9月、CD刊行は1989年とあり、まさにベルリンの壁崩壊直前だったというわけです。

 


ちなみに、CDは未開封のセロファンラッピング(細い帯状の破り口がついている)に包装されていたので、おそらく「新古品」と思われますが、それにしても30年近く前、しかも西ドイツ時代に発売されたCDがまだ現役で流通している(つまり需要がある)ということ自体、このCDに収められた演奏の何たるかを物語っている気がします。(なお、FM放送でオンエアされたCDの番号は、かつてポリドールから出ていた日本ローカライズ版のもので、当然のように今では中古品でしか入手できないようです。)


収録されているのは9曲のオルガヌム作品で、そのうち6曲はペロタンに帰属され、3曲は作者不詳となっています。中でも有名なのが冒頭に触れたViderunt Omnesで、第1曲目に収まっています。亭主が最初に聴いたのはデヴィッド・マンロウとロンドン古楽コンソートによる演奏で、その力強く推進力に満ちた響がいまだに耳の底で鳴り響いている感じですが、それに比べるとポール・ヒリヤーの演奏はより透明感があり、洗練された美しさを持っています。

 


これ以外のオルガヌムも実に印象的で、支配的な3拍子(=アルス・アンティカのリズム構造)の上に乗って響く不思議な和声が時にはえも言われぬ浮遊感をもたらし、あるいは「拍子のオスティナート」的な拍動で宗教的恍惚へと聴くものを誘う感じです。

これらを聴いていると、現代音楽家の中でもミニマリストと呼ばれる人々がペロタンを自分たちの始祖と称して崇めるのも大いに納得させられます。

なお3曲目、Alleluia Posui Adiutoriumで途中に入るグレゴリオ聖歌と思しき単旋律のフレーズ、どこかで聞き覚えがあると思い巡らしたところ、どうやらメシアンのオルガン作品「聖なる三位一体の神秘についての瞑想」の中で出て来たものと当たりがつき、西洋音楽の分厚い歴史に改めて慨嘆させられました。