さらば、わが愛 覇王別姫 | akaneの鑑賞記録

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2人の京劇俳優の波乱に満ちた生きざまを描き、中国語映画として初めてカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した一大叙事詩。京劇の古典「覇王別姫」を演じる2人の京劇役者の愛憎と人生を、国民党政権下の1925年から、文化大革命時代を経た70年代末までの50年にわたる中国の動乱の歴史とともに描いた。デビュー作「黄色い大地」で注目され、本作の成功によって中国第5世代を代表する監督となったチェン・カイコーがメガホンをとった。

 

蝶衣と相方、小楼を通して描く、日中戦争から文化革命へと流れていく中国のリアルな現代史には、文化革命当時に多感な少年時代を過ごした監督、チェン・カイコー自身の体験が投影されている。

 

 

1925年の北京。遊女である母に捨てられ、京劇の養成所に入れられた小豆子。いじめられる彼を弟のようにかばい、つらく厳しい修行の中で常に強い助けとなる石頭。やがて成長した2人は京劇界の大スターとなっていくが……。

 


時代に翻弄されながらも愛を貫こうとする女方の程蝶衣(チェン・ディエイー)をレスリー・チャンが演じ、恋敵の高級娼婦役でコン・リーが出演した。製作から30周年、レスリー・チャンの没後20年の節目となる2023年に、4K版が公開。

 

 

 




中国でアートシネマが自由に作られていた時代を代表する、チェン・カイコー渾身の歴史絵巻。
1993年、中国・香港・台湾合作で製作されました。


物語は1924年から、1977年頃までの50年以上に渡る物語。
公開当時は映画館に足を運ぶことはなく、なんとなく題名は知っていて気になる映画…という程度でした。


感服!!

いやもう、傑作すぎて言葉で語ることができません。
172分という長さも全く気にならず、食い入るように見てしまいました。

あらすじや予告編からは、長年共演している男優に思いを寄せる女方と、彼の妻となった女性との三角関係的なストーリーかと思っていましたが、ぜんっっっぜん違いましたね!!
そんなヤワなラブストーリーじゃなかったです。

申し訳ございません。

 


目まぐるしく体制の変わる戦中戦後の中国。
京劇及び役者に対する凄まじいまでの弾圧。

そういった激動の政治に翻弄される人々の物語でした。





遊女である母に捨てられ、京劇の養成所に入れられた少年・小豆子〈シャオドウヅ〉。
養成所と言っても何かあるとすぐに体罰。

奴隷のような厳しい環境です。
過酷な稽古に耐えかねて逃げ出した町中の芝居小屋で、初めて本物の京劇を目にするシーンの迫力!
極彩色の衣装、打ち鳴らされる鐘や太鼓、人々の熱狂!
幼い彼らも一瞬にしてその舞台に魅せられ涙を流すのでした。

 


『あの人は、どれだけ多くの鞭を食らって、今、ここに立っているんだろう……』



厳しい処罰は覚悟の上で、養成所に戻った小豆子。
常日頃から自分を守ってくれた兄貴分の小石頭〈シャオシートウ〉と共に、さらに修行に励むのでした。

 


ある日、富豪の邸宅で、名作「覇王別姫」を演じた二人は大いに気に入られ、スター役者への階段を上り始めます。

しかし女方の小豆子が、パトロンに気に入られるということは…その演技を愛でることだけではありませんでした。

 

ここまでを演じた子役たちも、本当に素晴らしかったです!




成長した2人は、それぞれ程蝶衣(チェン・ディエイー/レスリー・チャン)、段小楼〈ドァン・シャオロウ/張豊毅 チャン・フォンイー)という芸名を名乗り、トップスターになります。

 

 

 

 

 

蝶衣はますます、小楼への想いを募らせていきますが、

 

 

 

小楼は妓楼の菊仙(ジューシェン/コン・リー)と結婚してしまいます。

 

 

 

蝶衣は嫉妬心と自らを捨てた母と同じ遊女の菊仙に激しい敵意を抱き、同性愛者である京劇界の重鎮・袁四爺の庇護を求め、小楼との共演を拒絶するようになりました。

 

 

 


日中戦争が激化した1937年、北京は日本軍の占領下となりました。蝶衣の姿は日本軍の将校を魅了しましたが、小楼は堕落し舞台衣装も売り払う羽目に。

一方の蝶衣も次第にアヘンに溺れていきます。

 


戦後、日本軍が撤退したあと、世の中は労働者を主役とする共産主義思想に染まります。
映画冒頭、1920年代においては「いまだかつてこれほど隆盛を極めたことはない」と言われていた京劇でしたが、堕落の象徴として京劇は弾圧され、蝶衣と小楼も自己批判を強要されます。

群衆の恥辱の中、小楼は蝶衣を裏切り、追い詰められた蝶衣は菊仙を裏切り。
互いへの愛憎と裏切りの連鎖の先には……



なんといっても、レスリー・チャンの凄さです。

 

 

 

 

 

妖艶さ、深い孤独と絶望。
決して受け入れられることのない小楼への想い。
京劇や自分の芸術に対する孤高のプライド。
同性愛は忌み嫌われているにも関わらず、パトロン無しでは生きていけないもどかしさ。

そういう哀しみが切々と伝わってきました。
京劇独特のあのセリフは地声かな?

吹き替えのような気もしましたが、動きは本当に綺麗でした。
 

 

 

 

 

 


段小楼を演じたチャン・フォンイー。
レッドクリフでの曹操は非常にカッコ良かったですけど、

 

 

 

今回は、ちょっと。。。
少年時代は真っすぐな兄貴だったのに、自分自身の弱さ故に大切な人を失ってしまうのです。

 

 

 

 



話の途中まで、あまりいい印象のない菊仙でしたが

 

 

恋敵である蝶衣が阿片におぼれた際の献身的な姿、弟子に自分の役を取られてしまった蝶衣を思いやるような表情など、言葉ではいい表せられない感情が伝わってきました。
同じ人を愛した者同士、憎しみもありますが、だからこそ蝶衣を一番分かっているのは菊仙だったように思います。
 

 

 

 


「覇王別姫」とは京劇の演目で、項羽と虞美人の哀話を描いた作品です。

秦の末期、楚の項羽と漢の劉邦が争っていました
項羽は自分の力を過信し、周りが止めるのも聞かないで大軍を率いて九里山に進軍します。
ところがそこには漢の大軍が待ち伏せており漢軍に包囲されてしまいます。

夜中、四方八方から楚の歌が聞こえてきます。包囲している漢軍の兵士が歌っているのです。
この場面が「四面楚歌」の由来です。

「自軍の兵士がこんなにも漢側に寝返ったのか」と項羽は戦意を失い、愛姫・虞美人は別れの杯を交わし自害するのでした。







1952年生まれのチェン・カイコーは、父親も映画監督という裕福な家庭に育ち、まさに激動の時代を体験しています。
この映画には、文化大革命時に反革命分子とされた父親を裏切って糾弾した苦い体験を持つ、監督自身の痛々しい思いが込められていることでしょう。

その後、文革終結後の1978年に北京電影学院に入学し、中国映画「第5世代」もう一人の英雄、チャン・イーモウと出会いました。
イーモウと制作した『黄色い大地』は国外批評で大成功を収め、以降彼らは中国屈指の名監督として名を馳せたのです。




チャン・イーモウ
1999年 初恋のきた道
2002年 HERO
2003年 LOVERS


ジョン・ウー
2008年 レッドクリフ

アンドリュー・ラウ
2002年 インファナルアフェア




このあたりの中国映画の大作は本当に素晴らしく、大好きな作品でした。
今上映されている「キングダム」も、これらの作品を彷彿させる映像です。


でも今の香港中国では、もう制作できないだろう…ということが哀しいです。




公開30周年、レスリー・チャン没後20年特別企画として、4Kで鮮やかに蘇った名作。
日本での上映権などもあるようですので、是非、この機会に映画館で鑑賞してくださいね。