「サバイバー 宿命の大統領」
2016年から放送されたアメリカのドラマです。
一堂に会した政府要人が全滅した際、政府機能を喪失する危険を避けるため、一部の議員や閣僚を隔離させておき、有事の際にはその者を大統領として政府機能を維持させる、これが原題の「DESIGNATED SURVIVOR、指定生存者制度」。
国会議事堂が爆破され政府首脳が全滅するテロが起こり、指定生存者として大統領に就いたトム・カークマンの物語です。
このドラマを2019年、韓国が「サバイバー 60日間の大統領」としてリメイクしています。
韓国と米国の憲法の違いがあるため、タイトルに「 60日間の大統領」が追加されており、韓国版では大統領そのものではなく、あくまでも大統領選挙までの「代理」です。
いずれもNetflixで見られるんですけど、そのリメイクの仕方が見事!なのでご紹介します。
国会議事堂が爆破され、大統領はじめほとんどの閣僚が死亡してしまい、急遽、政治の世界とは縁遠い「指定生存者」として生き残った主人公が、継承権の順位により世界最高の権力を持つアメリカ合衆国大統領として任命されたことから、未曾有の混乱と政治的反発、そして政府内の陰謀とテロに立ち向かうストーリー。
「指定生存者=重要な会議には呼ばれない人」なので、政治の中枢からは遠い人物であり、あくまでも「緊急時の繋ぎ、代理」といった扱い。「国民に選挙で選ばれた人物ではない」という立ち位置で、あまり優遇されたスタートではない。
という骨子はそのままですが、そこに肉付けされるストーリーは全く異なるんです。
【主なキャストの比較】
米:トム・カークマン(キーファー・サザーランド)
アメリカの住宅都市開発長官
韓:パク・ムジン(チ・ジニ)
韓国科学技術院、化学科教授出身の環境相
米:アーロン・ショア(エイダン・カント)
首席補佐官、前大統領の首席補佐官代理
韓:ヨンジン(ソン・ソック)
政治学博士出身、大統領秘書秘書室長
米:エミリー・ローズ(イタリア・リッチ)
特別顧問。住宅都市開発長官であった頃の首席補佐官
韓:チョン・スジョン(チェ・ユニョン)
大統領府第1付属秘書官。元環境相ポリシー秘書官
米:セス・ライト(カル・ペン)
ホワイトハウスの報道官。前大統領政権のスピーチライター。
イスラム系の出身。
韓:ギム・ナムウク(イムセン)-大統領府報道官。元スピーチライター。北朝鮮出身。
イスラム系、北朝鮮出身と、二人ともマイノリティな出自となっている
米:キンブル・フックストラテン(ヴァージニア・マドセン)
下院議員。議事堂の爆破テロを生き残ったもう一人の生存者。
韓:ユン・チャンギョン(ペ・ジョンオク)
国会議員政策補佐官出身、 野党「先進共和党」代表
ベテラン議員。もちろん大統領の座を狙っている。敵となるか味方となるか。
米:ピーター・マクリーシュ(アシュリー・ズーカーマン )
議事堂爆破テロで唯一、奇跡的に助かった若手議員。
韓:オ・ヨンソク役(イ・ジュニョク)
無所属国家議員 国会議事堂テロ事件の唯一の生存者
いかにも爽やかでクリーンなイメージの若手議員。弁舌も爽やかで頭の回転も早く、次期大統領候補として一番人気。
米:ハンナ・ウェルズ(マギー・Q )
FBI特別捜査官。愛する人を議事堂の爆破テロで失い、自らテロ事件の捜査に参加する。
韓:ハン・ナギョン(カン・ハンナ)
国家情報院対テロチームの分析官。婚約者を爆破テロで失い、自らテロ事件の捜査に参加する。
マギーQのタフさに比べると、韓国版のナギョンは見た目ちょっと子どもっぽいけれど、テロ事件解明のため奔走します。
大統領代理としての最初の仕事は、爆破事件後すぐに行動を起こした敵対国との交渉です。
もちろん、アメリカにおいてテロ攻撃となると、敵国はイスラム諸国であり、アルカイダになるので、そのままの設定は使えません。
韓国に於いての敵国は北朝鮮であり、関係諸国としてアメリカや日本の影響も大きくなります。
*アメリカ
国会議事堂が爆破され、イラン軍が運河に駆逐艦を派遣。
石油タンカーを攻撃して西側職への石油供給を止めるつもりか!と懸念されます。
カークマンはイラン大使をホワイトハウスに呼び、とても穏やかに、でも毅然として、「3時間のうちに、駆逐艦を帰還させてください。そうでないと、明朝、あなたの国が壊滅的打撃を受けたニュースがトップを飾ることになるでしょう」で解決。
*韓国
爆破後、北朝鮮の潜水艦が南下途中に消息を絶った。
どこかに身を潜めて攻撃を仕掛けて来るのか?
すでに戦闘機も配置された模様。
消息を絶ったあたりの海水に水質異常がみられる。潜水艦のエンジンに使われるカリウムが漏れているようだ。
もしかしたら沈没したのかもしれない。
「すぐに戦闘機の配備を解除してください。そうすれば、潜水艦が沈没した場所の座標を教えます。今ならまだ、乗組員を救えます。」
あとやはり、家族の描き方、男女の関係や恋愛模様の絡め方も当然違います。そして子供の問題の扱い方が正反対でした。
「大統領の息子が実子ではないかもしれない」とスクープされたケース
*アメリカ
妻が前夫と結婚中、カークマンとの不倫で生まれた子で、実のところどちらが父親か不明だった
⇒DNA鑑定をして、実の親子であることが証明された(不倫よりも実子関係が重要)
*韓国
最初の出会いの時から、彼女はシングルマザーで働いていた
⇒不倫の子供ではない。実子ではないが愛情をもって育てた
誘拐された子供の結末も全く違いました。
そういうところは非常に「道徳観」が違うんだなと思いましたね。
「妻は弁護士」という設定
*アメリカ版
アレックス・カークマン (ナターシャ・マケルホーン)
ファーストレディーとして単独で講演やチャリティーなど表舞台で活躍する大統領夫人。
二人の出会いに関しても、アメリカ版では「●●ということがあって、そこで出会ったの」って会食で数秒話すだけ。
*韓国版
チェ・ガンヨン(キム・ギュリ)
夫が抱える問題解決のために自分の法律の知識を駆使して支える妻。
大気汚染問題に取り組む大学教授と住民への補償を担当する弁護士という形で出会い、最初は反目し合うも、次第に協力して裁判に取り組み勝訴する、といった出会いのストーリーを、回想ナレーションではなく、ちゃんと数十分かけて実写でやる。
「主人公と元大統領との関係性」
*アメリカ版
元大統領は最初の方でスピーチしているテレビ画面に数秒登場するだけですぐ死ぬ
*韓国版
元大統領の人となりや、主人公とのなれそめなども回想シーンでしっかり描く
それぞれの人間関係をじっくり描き、感情的にも訴えるところが多い韓国版。
最初の議事堂爆発で、捜査官の婚約者は死んでしまうのですが、韓国版ではその彼の見せ場もちゃんとあります。
あと、世論が二分される大きな問題ということで扱われたのが、アメリカでは「銃規制」。
韓国では「平等法」。
人種や性別、といった様々なことが対象になりますが、最も目立って扱われたのは「同性愛」でした。
アメリカ版は、やはり交渉するのも世界中の国々が対象であり、NATOだのサミットだの、各国の首脳と集まるシーンも多いし
あらゆる国から揉め事を持ち込まれます。
やっぱり世界をリードしているのはアメリカなのだなと思い知ります。
そういうところは韓国版ではやはり難しいので、後半はドラマの内容も変わってきてしまうのですが、ストーリー展開は断然韓国版の方が面白かったです!
アメリカ版は続編が決まったからなのか、ラストの数話はかなり端折った感じで全然すっ飛ばしていて、あまり深味がありませんでした。
議事堂爆破テロを企てたメンバーに関しても、韓国版は政府内にも軍部にもまぁなかなかの人数の内通者がいて、「え?ほぼ政府乗っ取られてない?」ってぐらいで、もはやクーデター規模なのに対し、アメリカ版では「お前?誰?」ぐらい大して目立っていなかった人だけが裏切者で、あとは民間のテロ組織が牛耳ってましたという展開。
政府を悪く描くことはないんですね。
1話の長さも、アメリカ版が45分程度なのに対して、韓国版は70分ほどあります。
とにかくスピーディーでスタイリッシュ。こじゃれた会話、FBIの活躍、マスコミ対策、仕事をテキパキこなすアメリカ版を見たあとは、なぜか早口になり、とても仕事がはかどります。(笑)
45分の間、ほぼずっと会話が続いていて、全身を映していることが多く、あまりアップで1人ずつの顔を抜くことはありません。
BGMも場面が変わって風景が映るときに少し流れるぐらい
韓国版だと、何か重大な発言をするときに、音楽で大いに盛り上げ、その場にいる人の顔を順番にじっくりアップで見せます。
とにかくセリフを言うときはほぼバストショットで顔のアップを1人ずつ映し、悔しいときには「握りこぶし」、ちょっとたじろいだ時には「後ずさりする足元」というように体のパーツをアップにすることも多いですね。
キーファー・サザーランドはまぁともかくジャック・バウワーです。
文句なくカッコいいんですよ。
最初のうちだけ、ちょっとドギマギ、モタモタ、しますけど、すぐにアップデートされちゃって、弁舌爽やか、誠実さバリバリ、で、もう完璧に超理想の大統領になっちゃうんですね。
こういう時にはどうすればよい?
●●という方法があります
それは好きじゃないな
では〇〇ではどうでしょうか
それでいこう。進めてくれ
決断はやっ!
色々指導をしてくれる大先輩の元大統領に対して
あなたを怒らせたことはお詫びします。
でも今、必要なのは助言です
(ウダウダ言ってねーで、対案出せ!)
とか上司に言ってみてーよ。
対して、韓国のパク・ムジンは、このドラマの98%ぐらいはずーーーーーーーーーっとこのように眉間に皴を寄せた難しい顔をしているのがちょっと鬱陶しかったですね。
本当に誠実さのみが売り、というか、「あなたのことを信じます」の一念で相手と心を通わせる、本当に「いい人」なんです。
ラストはなんか青春物語みたいに爽やかに終わってました(笑)
この題材をどんな風に変えてくるのかな?というのが楽しみで、米韓、交互に見てしまいました。
それぞれのお国柄、政治の違い、またドラマの作り方の違いがはっきり分かるのも、非常に興味深かったです。
こういうのが「リメイク」っていうんじゃないのかな。
「完コピ」じゃなくてね。