新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」 ディレイビューイング | akaneの鑑賞記録

akaneの鑑賞記録

歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

3月の歌舞伎公演、全て中止となってしまいました。
明治座と歌舞伎座、チケット買ってたのにな~。
すごく良い演目だったのにー!見たかったのにー!
なんだかすっかり気分が落ちてしまって、仕事をする気もないわぁ…
メジャーな映画も軒並み公開延期。
欧米では映画館も閉館状態から仕方ありませんけど。
舞台関係は少しずつ上演が始まるようですが、なんとなく先の見通しが立たず、色々やる気が出ません。





さてさて、昨年12月、新橋演舞場で公演された新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」が、昼夜両方ともディレイビューイングとして映画館で上映されたのを観てきました。

 

 

 

12/8に通しで観る予定だったのですが、菊之助さんの骨折によって夜の部が休演となってしまったもの。

 

 

 

 

原作は言わずと知れた宮崎駿さんによる漫画作品。
戦争による科学文明の崩壊後、異形の生態系に覆われた終末世界を舞台に、人と自然の歩むべき道を求める少女ナウシカの姿を、年代記の形で描いています。

 

ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は数百年のうちに全世界に広まり巨大産業社会を形成するに至った。

大地の富をうばいとり大気をけがし、生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は1000年後に絶頂期に達しやがて急激な衰退をむかえることになった。

「火の7日間」と呼ばれる戦争によって都市群は有毒物質をまき散らして崩壊し、複雑高度化した技術体系は失われ地表のほとんどは不毛の地と化したのである。

その後産業文明は再建されることなく永いたそがれの時代を人類は生きることになった。

 

 

 


1984年にジブリで映画化されたのは、全7冊のうちの1冊半ぐらいなので、どれほど長大な物語か、ですね。
あまりにも世界観が大きすぎるので、詳細はこちらを参考にしてください。


争いの絶えない人類
1000年単位で繰り返される、地球の浄化。

現代社会にも通じる問題です。
 

 

 

 


ともかくストーリーが壮大で、登場人物も多いので、どうしても説明がちになるのは仕方ないかなぁ。
どんどん場面転換するので、厳しい言い方をすると「動く紙芝居」みたいな感じがします。
もう少し削って、ポイントを絞った方が良いような気もしますが、どこかを削ってしまうと話が繋がらなくなるのでなかなか難しそうです。


でも状況説明が主だった前半より、後半はかなりドラマティックでしたし、
連理引き、海老反り、ぶっかえり、獅子の毛ぶりなど、歌舞伎の手法がたくさん使われていました。

 

 



菊之助さんのナウシカ

 

 

もちろん40歳のオジサンが少女を演じているわけですけど、

 

 

とても優しい母性もありつつ、勇敢な戦士でもあり、菊之助さんの真面目さ、真っ直ぐな性格が、ナウシカに通じるものがありました。

いつもは女形で長い着物を着ているため、足元はよく見えないのですが、今回はくるぶしぐらいまでの衣装なので、踊ったりするときの足の運びも良く見えます。どんな時もきっちり内股で、美しい所作でした。
「京鹿子娘道成寺」の踊りも取り入れられていて、花笠や鈴太鼓も使います。

 

 

花笠はグレーに金の模様だったりして

 

 

世界観を壊さないような小道具になっていました。
黒塗りの笠は使えないでしょうけれど、その代わりに半透明のボウルのようなものを笠代わりに使っていて、それはちょっと笑っちゃったな。

多分防護ヘルメットを意識していたんだと思うけど。

 

 

 


そして全編通して、トルメキアの皇女クシャナ

 

 

を演じた七之助さんがとってもカッコよくて光りましたね。

 

 

 

彼はちょっと硬質でドSな役がメッチャハマるので。
アニメでもカッコいい名言がいくつもあるようですね。
25歳という設定だそうですが、非常にリーダーシップがあり、部下にも慕われています。
親兄弟に疎まれて殺されそうになるし、部下も失い一人でトルメキア国を背負う孤高の王女。
マント翻して「おのれ!この恨み、はらさでおくべきかー!」って

 

 

 

 


それから庭の主を演じた中村芝のぶさんが凄かった!

 

 

国立劇場研修生出身ですから、大歌舞伎の座組で古典をやるときには、「腰元その1」みたいな役しかつかないんですけど、新作歌舞伎だと重要な役を演じることが多く、その存在感と演技力にいつも驚かされます。
例えば「贋作 桜の森の満開の下」でのエナコとか。

狂気を孕んだ役が凄いんです
今回も、男声と女声を完璧に使い分け、ナウシカを惑わせる庭の主と母親の幻影を見事に演じていました。
 

 

 

 


70歳代の大御所に比べると、イマドキの若い役者は役の胆(ハラ)がないなどとよく言われます。

演技が薄いな、という感じは確かにあります。
世話物演じても江戸っ子の気質が感じられないとか。
仕方ないですよね。

そういう風情をもはや体感することもできないですから。



でも、坂東巳之助君の極悪っぷりなんて、もう色っぽくて惚れ惚れしました。
土鬼(ドルク)諸侯国連合の神聖皇帝、皇兄ナムリスと皇弟ミラルパの二役の演じ分けも見事だったし、まさに色悪!

 



 

 

 

 

種之助君の狂言回しも、後半のお芝居を引っ張っていく重要な役。

 

 

最後には中村吉右衛門さんの語りをそのまま引き継いで語るのですが、全然引けを取らず台詞がとても良かった。
 

 

 


「墓の主」のシーン、全面黒いパネルに、金文字が書かれた形で表現しているんですが、

 

 

その前に何人か、同じく金文字の書かれた黒い幕に隠れるように立っているんです。
あるきっかけで、その布をパッと離すと、それは衣装の裏で(長いスカートをめくりあげて両手をあげて隠れていたと想像して!)
1回転すると同時に瞬間に全身白、全身赤の衣装に早変わり!

めっちゃテンション上がったところに…


墓の主の精(白)を中村歌昇くん

 

 

 

巨神兵(赤)を尾上右近くんが

 

 

獅子の誂えで両者の戦いを表現します。
2人とも若いので、体の動きもキレッキレ!

迫力満点の踊りでワクワクしました!

 

 

 

 

 

クラシック音楽もそうなんですけど、もともと江戸時代の歌舞伎は、今のジャニーズやEXILEみたいに、女の子をキャーキャー言わせてたんです。
流行の最先端であり、ファッションリーダーだったんですから、妙に難しく高尚なものにしてしまってはもったいない。
歌舞伎の語源である「傾奇者」とは、異風を好み、派手な身なりをして、常識を逸脱した行動に走る者たちのことですからね。
もちろん、素晴らしい古典作品を真摯に継承していく、その勉強を怠らずも、現代の感覚で尖った作品も作り続けてほしいと思います。
それがどれだけ後世に残るかは分かりませんが、今の若手たちは危機感を持って、新作にも大いに取り組んでいるのは頼もしいです。

 

 

今回のディレイビューイングも、漫画やアニメなど原作ファンと思われる若い人がたくさん見に来ていて、「あのシーンをあんな風にするの、凄いね!」なんて話していて嬉しくなりました。

 

 

 

それにやっぱり200年300年前のお芝居、共感できない部分もあります。
上司のために子供を殺すとか、訳わかんないですもんね。
もちろん当時もそういうことは受け入れがたく、悲劇として書かれたわけですけど。
少々ウトウトしていてもほとんど話が進んでいない、といったスローペースで退屈しちゃう作品もあるし
役者の演技力だけじっくり見せるより、どんどんストーリーが展開していく方が現代の感覚に合っていて面白かったりもします。

 

 


幼少時から修業を積んでいる歌舞伎役者さんたちの演技力、そのスキルの高さは世界に誇れる素晴らしいものなので、色々な形で活躍してほしいなと思います。