「何だ、随分と静かになったぞ。」
舟村が周りをキョロキョロしながら探知機をポケットから取り出す。それはさっきまでのけたたましい鳴り方から随分と小さな音に変わっている。
「無くなった・・わけでもなさそうだが・・・?」
手に取った探知機を見ながら舟村は美帆の方を見た。吉岡も美帆の顔を見る。
「いなくなったわけじゃない。でも、多分もう大丈夫。」
そう答えながら美帆は瑞希を見る。前の時もそうだった、瑞希がいなかったらあれは退いてくれなかった。今回もそうだ、瑞希の力が無ければ何も出来なかった。
「どうなったんだ?」
吉岡は事の詳細を知りたげに訊ねる。
「どうって・・私は何もしていないから・・・。」
美帆は自分には結局何の力もないように思えた。何も役に立たなかった。
「何もって事は無いだろう。さっきまで凄いエネルギーが出ていたのに一気に小さくなってしまった感じだ。それともあの人形に収まったのか?」
吉村は少し不満げにそう言った。
「収まったていうか、寄り添っている。」
「寄り添っている?なんだ、それ。」
舟村はオーバーに両手を広げるゼスチャーをして聞き返す。
「自分のよりどころを見つけたって感じ。」
「おまえは何を感じ、何を見た?」
吉岡の問いに美帆はさっき見た光景を思い出すと思わず目を閉じた。真理子の母の最期もあの少女の生い立ちもまだ十四歳の美帆には壮絶すぎる光景である。思い出すだけで再び胸が痛くなるような感覚に落ちる。
「私は・・私、何も出来なかったわ・・・ただ、見ていただけ。」
美帆は唇を噛むようにして吉岡を見た。
「何もって事は無いさ。」
美帆が背負いきれない何かを見聞きした事を悟った吉岡はそう答えた。
「だって・・全部瑞希お姉ちゃんのお陰だもの。瑞希お姉ちゃんが手を差し伸べてあれに光を与えたの。私はただ、見ていただけ。怖くて何も出来なかったもの。」
「怖いのは当たり前さ。人に見えない物が見えているんだ、尋常の事じゃない。でもおまえの目を通してここに残っていた念の残像が瑞希や譲原の心に届いた。おまえがそこに居てその残像に心を震わせ、同調したから見たり感じたり出来ない二人の心に届いた。おまえという媒体があったからあれは今まで押し込めていた感情というものを吹き出した。」
「そう・・なのかな。」
「そうさ。もっと自分の力を信じろ。何も役に立たないなんて事は絶対に無い。」
「お兄ちゃん・・・。」
「そうよ、美帆ちゃん。」
二人の会話を聞いていた真理子と瑞希が口を揃えて言った。
「美帆ちゃんのお陰でずっと分らなかったお母さんの最期を知る事が出来た。ずっと、どうして私を残して逝ってしまったのか、お母さんの心の中に私という存在はそんなに小さなものでしかなかったのかって思っていたの。お父さんが死んだ後、お母さんと二人支えあって生きてきたはずだったのにって。でもあれがお母さんの本意じゃなかったことが分った。お母さんが私をずっと待っていてくれていたって。お母さんの苦しみも・・ありがとう、美帆ちゃん。」
「私が何かを感じたのも美帆ちゃんの力のお陰だと思うよ。私なんて普段何にも見えないんだもの。どうしてあんな風に胸が痛くなったりしたのか分らないけど、きっと美帆ちゃんが感じたこと、見たことの想いが私の中に入ってきたんだと思う。」
「真理子さん・・瑞希お姉ちゃん。」
二人の言葉に美帆は勇気を貰ったような気がした。子供の頃からずっとわけの分からないものが見えたり聞こえたりするのがずっと嫌だった。怖くて仕方が無かった。それが前回の事で瑞希にそれは人を救える凄い力だと言われてやっとそこから逃げるのはやめようと思えた。見えてしまうのも感じてしまうのもどうしようもない事なのだから向き合おうと思えるようになった。そしてその後、ずっと漠然と考えていた事が二人の言葉で決心することが出来るように思えた。今日の事でちょっと自信を無くしそうだったがそうでは無いのだと思えた。
「お兄ちゃん、私、きっとこれからもずっとこんな事があるのだと思う。私、もっと力をつけたい。それでいろんな人を助けられるようになりたい。」
「美帆・・・。でもまだそう決める事はないさ。おまえはまだまだ若い。これからもっともっと他の可能性だって出てくる。今、決めなくても良いさ。どんな事も気負って、やらなければなんて使命感持ってしまうとそれに押し潰されたり挫折したりしてしまうからな。おまえのその力が誰かにとって必要だったり、役に立ったりするのはきっと自然の流れの中にあるんだと思う。」
「お兄ちゃん・・・。」
「そうそう、美帆ちゃんにはまだまだ先があるんだから。」
瑞希の相槌に美帆は頷いたがこんな力を持って生まれたのも何かが、目に見えない大きな力が美帆にこう生きろと言っているような気がしていた。そうして美帆はその流れに逆らわず生きて行きたいと今、心からそう思っていた。とは言え、兄の言うようにこの先、何かまた別の道を見つける事も全くないとは言い切れないがと心の中で返事をした。