「吉岡君、この人、すっごい面白い。」

「だろ?瑞希ならそう言うと思った。」

「うん、でも、それじゃ今は捕獲できないって事よね。大丈夫なのかな、ちょっと心配。」

そう言って瑞希は美帆の顔を見た。美帆は少し険しい顔をしている。

「何か・・あるかも・・・。」

「何かって?」

「お兄ちゃん、前に替え玉って言っていた事あるよね。」

「ああ。」

「用意した方がいいかも。明日、おじいさんが連れて行かれる前に。」

「あれはおじいさんに執着しているのか。」

「うん、そうだと思う。」

「先輩、何かありますかね。」

「何かって言われても・・・。何も持ってきていない。機械も無いし当分捕まえるのは無理だと思っていたから。」

舟村は頭を掻きながら少し困った顔をしている。

「替え玉って、何?どうするのですか?」

「実は僕もよく分ってはいない。」

「は・・・?」

舟村の返事に美帆はやっぱり頼りにならないという顔で舟村を見返す。

「じゃ、どうやっていたんですか?」

「そのエネルギーの一番溜まっているところの中心になりそうなところにある物とかそのそこにずっとおいてある物とかを一度持って帰って増幅させる。」

「増幅?」

「最初はエネルギーが溜まるところには何かがあるのではないかと思って研究対象の為に持って帰っていたんだ。だけど特別変わった物ではない、古い櫛だったり、人形だったり、服とかね。でも同じような事を繰り返しているうちにそれらには独特の臭いがある事が分った。何ていうのかな・・カビ臭に近いような。まあ、あまり芳しい臭いとは言い難い。ただ、持って帰ってもそれらにエネルギーが集中する原理は分らなくてね、関係ないのかとも思ったりして放置していた事もあった。それがまあ、偶然なんだがそこにアンモニアと塩化ナトリウムとかもろもろの薬品をひっくり返してしまったんだ、しまったと思ったがもう遅い。そしたらそれが一層なんか嗅いだ事のない強烈な臭いを放った。捨てようと思ったが、捨てる前に一度元の場所に戻してみようと閃いた。何でそう思ったのかは分らないが、まあ僕の科学者としての本能がそうさせたとでも言うのかな。」

そこで舟村は一度咳払いをした。なんとなく少し自慢しているように見える。

「そうしたら、そこにあったそのエネルギーがすぐに現れた。」

「現れた?」

「そこはいつもエネルギーが溜まっているわけではなくある時と無い時があったんだ。で、それをあの機械の中に入れるべく口をあけて仕掛けたら物凄く反応した。あの機械の中にそのエネルギーが流れ込むのが分った。もう心が躍る瞬間だったね。暫くすると静かになってエネルギーの気配は無くなった。僕は捕獲できたと思って小躍りしながら研究室にそれを持ち帰った。研究室に帰ってすぐ機械を気体採取装置に繋いだ。」

その時の事を思い出しているのか舟村は少し興奮気味に話している。

「装置に気体が流れ込んだのを確認して機械の中のあのボロ服を見たら不思議な事にあの異臭は消えていた。これはいよいよ捕獲できたと思って装置の中の気体を調べた。この未知のエネルギーを分析できて応用する事ができたらどんな事になるかと。ところが・・・。」

そこで舟村はガックリと肩を落として大きく溜息を付いた。

「何にも無かったんだ。採取した気体は酸素と二酸化炭素しかなかった・・・。他の物は何も無かった。僕は捕まえ損なったのかと思って再三、その場所を訪れた。しかし、そのエネルギーがその場所に現れる事は二度と無かった。文字通り、跡形も無く消えてしまったんだ。」

「凄い!」

瑞希が思わずそう言うと舟村は少しムッとした顔をした。

「それは嫌味か、俺は失敗したんだ。」

僕から俺に変わっている。まあ、舟村にしてみれば本来の目的を果たせなかったのだから失敗なのだろうが瑞希にしてみれば霊が跡形も無く消えるなんてこんな凄い事はないと素直に思える。だが舟村の憮然とした表情にここは褒めるところではないのだという事に気が付いた。

「え、いえ。そういう意味じゃ・・。あ、で、その、さっきの増幅って?」

「あ、ああ、まあ話を戻そう。それでそれからそれらの場所から持ち帰った物にひっくり返した薬品を混ぜ合わせた化合液を染み込ませるとどうやらそれに元々付いていた臭いというか菌?のようなものが倍増して異臭を放つようだ。それがそこにあるエネルギーを呼び込むという事が分った。で、俺はそれをエネルギーが好んでいる物の替え玉と呼んでいるというわけだ。」




  <六百九十八へ続く>