2年前の如月朔日(ついたち)の記事の再録です。
ハニーフラッシュ‼️
2年前の如月朔日(ついたち)の記事の再録です。
ハニーフラッシュ‼️
ニッポン樫鳥の謎 エラリー・クイーン
1937年 創元推理文庫 1961年
東京帝国大学で死ぬまで比較文学を教えていてラフカディオ・ハーンとも親交のあった父親と共に人生の大部分を日本で過ごし、アメリカに帰国してからはマンハッタンの邸宅の中に身を潜め、社会から隔絶されたように過ごしていた女流作家カーレン・リースは、その著作「八雲立つ」が文学賞を受賞したことにより、初めて公の前に姿を現し、その邸宅の日本庭園で、抹茶によるティーパーティを催す。一介の推理作家としてそこに招かれたエラリーはカーレンと、その婚約者で世界的な癌研究の権威でノーベル賞受賞者のマクルア博士と、その養女のエヴァ・マクルアを知る。
さらにエヴァは、その場で知り合った若き医師ディック・スコットと恋仲になりやがて婚約する。
そして研究に疲れ果てて体重が減ったマクルア博士は周囲からの強い勧めに従ってヨーロッパへの船旅へと出発する。カーレンはやはり内向的性格なのか同行を断りニューヨークに残る。
そんなある日エヴァがカーレンの住まいを訪ねると、彼女の召使いの琉球の老女キヌメが、カーレンの部屋に封筒と紙(便箋)を持って入って行くところに行き合わせる。ドア越しにカーレンとキヌメの会話する声も聞こえた。
キヌメからカーレンは大事な仕事をしているから邪魔しないようにと言われたエヴァは、部屋の前の長椅子で本を読みながら待っていたが。やがてうたた寝をしてしまう。そのうちカーレンの部屋の中で何度も電話の鳴る音が聞こえるが、カーレンはそれを取ろうとはしない。それが何度も繰り返えされ、心配になったエヴァがカーレンの部屋に入って見ると、彼女は低い日本風のベッドの後ろの床から一段高くなった壇の上で首から血を流して死んでいた。傍には鳥の形をして羽の部分に宝石を散りばめた片刃のハサミの片方が落ちていた。これで首を切り裂かれたのだ。エヴァは思わずそれを拾い上げるが、カーレンの血が手に付いたのが怖くてそれを取り落とし、屑籠の中に落としてしまう。
途方に暮れていたエヴァだが、そこに不意に褐色の肌の男が現れ、直ぐに刑事が来るから何もするなと警告する。
その時突然外から石が飛んできて寝室の窓のガラスを割って室内に転がり込む。
窓には鉄格子がはまっていて、人が出入りする隙間はなかった。
カーレンの部屋には日本屏風の後ろに屋根裏部屋に通じるもう一つのドアがあったが、カーレンはそこには誰も入ることを許さず、エヴァ自身もそこに上がったことはなかったし、さらに寝室側からボルト錠が掛けられていた。寝室のドアの外にはずっとエヴァがいたわけなので、現場は完全な密室になっていた。
褐色の男は力づくでボルトを緩めて屋根裏部屋に上がった。後にわかったことだが、男の名はテリー・ヤングという私立探偵だった。ヤングはエヴァの血まみれのハンカチを暖炉で焼き捨てることを命じる。彼は現場を改変して証拠を隠滅してエヴァを助けようとしたのだ。
そこに市警の刑事が現れ現場を見て警察本部のクイーン警視に連絡をする。
マクルア博士はヨーロッパ旅行から帰国の途にあったが、偶然エラリーもその船に乗り合わせ、親しくなっていたところにマクルア博士宛にニューヨークから電報が入り、カーレンの死を洋上で告げられる。
そんな縁からニューヨークに上陸したエラリーは、父親が担当する事件に介入する事になる。なお探偵テリー・ヤングはエラリーやクイーン軽視にとって昔からの顔馴染みだった。
日本情緒に彩られた密室事件で、状況は寝室の外にいて、死体の第一発見者になったエヴァに不利に進行する。カーレンが昔日本から連れ帰って可愛がっていた一羽の琉球カケス(コマドリ)が、エラリーの事件解決に大きく関与する。
クイーンが、デビュー作の「ローマ帽子の謎」から、バーナビー・ロス名義の悲劇4部作を挟んで、「スペイン岬の謎」までの9作の国名シリーズの次には、タイトルのスタイルを変えて「中途の家」を書いたが、続く翌年雑誌「コスモポリタン」に発表された本作は最初「日本扇の謎」The Japanese Fan Mysteryの題で掲載されたが、単行本化された時には原題の The Door Between「間のドア」に改められている。日中戦争が長期化して対日感情の悪化が背景にあったと思われる。それまでの国名シリーズのような「読者への挑戦」は省かれているが、逆にそれまでの国名シリーズが、実際には国名として取られた国にはほとんど関係がないのに対し、本作では様々な日本情緒に彩られており、日本と台湾の間にある島琉球についても触れられている。キヌメ(?)の言葉遣いに若干の変な点は見られるものの、クイーンの知る日本の知識がふんだんに盛り込まれている。
客観的描写(いわゆる神の視線)で描かれているので、読者はエヴァが犯人ではあり得ないことを知っているが、段々と明らかになる過去の人間模様の中で、エラリーは密室の謎を解き明かす。
しかしそこは本格派ミステリの王者クイーンの初期シリーズの衣鉢を継ぐ作品である。この後に大きなどんでん返しが控えている。
これはクイーンが短編でよく使ったダイイング・メッセージ(死に際の伝言)と並んで、長編では生涯追い続けたマニュピレーション(操り)の手法である。読書への挑戦は付けられてはいないが、やはりそこに至る伏線はしっかりと読者の前に提示されていた。
やはりクイーンは読みやすい。特に本作は登場人物も少なく、他の初期の国名シリーズのように劇場やデパートが殺人現場で容疑者と登場人物のリストが何ページにもなるものと違ってスッキリとした組み立てだった。