わるいやつら 松本清張 昭和36年
新潮文庫 昭和41年
都内の内科病院の院長、戸谷信一は、名医と評判の高かった亡父の跡を継いだが、健康保険制度の導入で経営は悪化する一方だった。
しかし彼にはそれを立て直す才覚も覚悟も無かった。
歳上の愛人たちから巻き上げた金で充当していたが、それをかつて父の妾であり、また信一自身とも肉体関係があった、婦長の寺島トヨに観察されていた。
そんな女を金と愛欲の手段としかみていなかった戸谷が、若く美しい未亡人で、銀座一流の洋装店を経営するデザイナーの槙村隆子にぞっこん惚れ込み、これと結婚しようと画策する。それには2人の愛人の存在が邪魔になると同時に金蔓としての彼女たちの存在価値は高まるという矛盾に直面する。
そして戸谷は、周到な工作の下、ついに殺人に手を染める。
さらに槙村隆子との結婚の条件として、資産家である彼女にふさわしい相手としての金銭の提示を求められる。
それをかねて知り合いの冴えない貧乏弁護士の下見沢に相談し、借金して見せ金として銀行預金通帳に記載さえすればなんとかなると知恵を付けて、その借金の斡旋から入金までを戸谷の白紙委任状の下に実行させる。
悪徳医師の犯罪を描く社会派長編ミステリー。
医師の書く死亡診断書は何の疑いも持たれずに役所で受理され、埋葬許可証が発行される。
また患者は医師の出す薬や打つ注射を疑うことなどしないという絶対の信頼関係を逆手に取った戸谷の犯罪は、戦後から高度経済成長に向かいつつある日本の社会の危うさを描写する。
先日読んだ「十角館の殺人」の対極に位置するミステリーで、トリックというより、プロット(構成)で読ませるミステリーであった。
いわゆる倒叙型ミステリーで、戸谷の犯した犯罪がいかにして暴かれるかが読ませどころだが、犯行に至るまでの描写が長すぎるのと、情婦それぞれに個性の差があまり関じられなかった。
これはヒロインとしての槙村隆子の魅力を際立たせるための伏線ではあるが、最後のどんでん返しを含めて、女たちの書き分けが、苦労ほど上手く行ってるようには響かなかったし、最後に訪れるカタルシスも取ってつけたようになってしまった。
