パンチとジュディ | われは河の子

われは河の子

ブログの説明を入力します。


 パンチとジュディ カーター・ディクスン

 1937年 ハヤカワ文庫 2004年


 元陸軍情報部員のケンウッド(ケン)・ブレイクは、前回の「一角獣殺人事件」で恋仲になったやはり元情報部のイヴリン・チェインとの結婚式を翌日に控えていたが、突然元上司のHM(ヘンリー・メルヴィル卿)にデヴォン州のトーキーに呼び出される。


 その観光地のバンガローには、やはりかつての情報部員としてHMの片腕だったチャーターズ大佐が警察署長として住んでいた。

 このチャーターズ大佐が、やはりほど近いモートン・アボットに住んでいるホウゲナウアというドイツからの帰化科学者が、国際的スパイのLと呼ばれる人物の情報を2000ポンドで売ろうと言って来たというのだ。


 このホウゲナウアという男も多彩な天才肌の学者であるが、最近は心霊学に凝っていて、人に見られずにして空気中を移動できるとかの実験をしているらしく、チャーターズ大佐の隣家に住む人アントリウム医師夫妻と患者として交際する以外はブリストルのケッペル博士という友人しか付き合いがないようで、第一次大戦後にイギリスに帰化したものの、すぐにスイスに出国したりして、チャーターズ大佐の指揮下の警察によってスパイの容疑もあって警官に監視されていたが、

 閉め切った家の中で鎧戸の隙間を通して、逆さにした植木鉢のような物の回りを針のような光がきらめいているだけだったそうである。


 そこでケンに下された依頼(翌日に結婚式を控えているので命令ではなくあくまで依頼であったが)、モートン・アボットに住んでいるホウゲナウアの住まいにこっそり夜盗に入り、何かヒントがあるか調べて来いという無茶なもので、もとより大佐を始めとする警察が表立ってできることではないし、大佐には近隣で発生していた偽札事件の捜査もあった。

 

 ケンはご丁寧にも大佐から泥棒用具一式が入った鞄を預けられ、大佐の車も借りてモートン・アボットに到着するが、なぜか警察署長の車を盗んだ犯人として手配され逮捕されてしまう。


 なんとか警察署のロッカーにあった警官の制服を着用に及び窮地を脱してホウゲナウアの住まいに侵入するが、彼は毒を飲んで死んでいた。

 どうやらアントリウム医師が処方した鎮静剤を何者かにストリキニーネ(毒薬)とすり替えられたらしいのだ。

 その後も彼を追ってやって来たイブリンとともに様々なドタバタに巻き込まれながら、今度はブリストルのホテルで、ホウゲナウアと同様に死んでいるケッペルの死体も発見してしまう…


 カー(カーター・ディクスンの別名義)の中では比較的最近新刊で購入したように思っていたが、奥付けを見ると20年前の本だった🤣


 巻末でカーファンのミステリ作家二階堂黎人も解説しているし、本文中でHMも述べているが、

 立て続けに事件は起こるものの、その全体像がちっとも理解できないのだ。

 私は翻訳ミステリは昔から読み慣れているつもりだったが、薬瓶のすり替えトリックを始め、アメリカからHMを訪ねて来たストーンという人物や、チャーターズ大佐の秘書のサーポスという男、ホウゲナウアの使用人のバワーズという男のような脇役たちの存在に振り回されて、まさしく意味不明の事件だった。

 そのことが20年も再読を妨げていた証拠ななだろうが、改めて読んでみると、意外な犯人はもちろん、細かいところまで見事な伏線回収に膝を打った。


 ケンとイブリンが巻き込まれるスプラスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)であり、スパイ小説の一面もあるので、いつもは粗暴なまでに行動的なHMも今回は安楽椅子探偵の面持ちがあったが、犯人暴きのシーンは見事であった。