引き潮の魔女 J・ディクスン・カー 1961年
ハヤカワポケットミステリ 昭和51年
新進気鋭の精神病医のデイヴィット・ガースはフェアフィールドの海岸にある別荘からロンドンの診療所にやって来たが、心は別荘に残して来た愛人ベティ・コールダー未亡人のことで一杯だった。
ところが、そんな彼を診療所で待っいたのはトウィッグと名乗る警部で彼はベティは元売春婦で関係する男たちを恐喝する悪女だという。
驚いたガースはすぐにフェアフィールドにとって返すが、別荘の海岸の移動脱衣室に足を踏み入れると、そこにはベティそっくりの女が彼女の水着を着たまま絞殺されていた。しかも浜辺までの間には何ものの足跡さえも無かった…
カーの歴史推理小説三部作のラストを飾る作品で、歴史推理といっても歴史上の謎を解き明かそうというものではなく、単に時代設定を歴史的過去に持って行こうという試みで、
ジョージ王朝後期の1829年が舞台の「火よ燃えよ」、ビクトリア朝中期の1865年が舞台の「ハイチムニー荘の醜聞」に続き、この作品ではエドワード王朝の1907年を舞台にしている。
と、いわれても日本人には何のことかさっぱりわからないが、馬車に混じって自動車は普通に走り回っているし、精神科医のガースはさかんにフロイトの学説を引用する。
ようするに、日本の高度成長期に明治時代を舞台にした小説を書いたようなものである。
登場人物はそれほど多くないが、訳が悪いのか、書き分けが上手く行っていないように感じてよく理解できない作品だった。
メイントリックはカーがよく使う○○○○トリックである上に、このガースとベディにまとわりつくトゥイッグという警部がことあるごとに、
「う……うふん!」とつぶやくのが気に障った。
もっともカーの作品の登場人物には「バッカスよ‼️」とか、「アテネのアルコン(執政官)‼️」などと突然叫ぶ名探偵が登場するので慣れてはいると言えるが🤣
ただこの中で、主人公のガースが精神科医である一方で推理小説も書いており、密室ミステリの古典的名作であるガストン・ルルーの「黄色い部屋の秘密」を引き合いに出し、さらにそれのネタバレまだしているのはいただけない。
同じ海辺での足跡のない殺人としては同じカーの「貴婦人として死す」よりはかなり劣る印象だった、
