ブラックサマーの殺人 M・W・クレイヴン
2019年 ハヤカワ文庫 2021年
前作の「ストーンサークルの殺人」事件を解決し、自らもその事件で負った火傷の傷も治りかけて来た国家犯罪対策庁、重大犯罪分析課部長刑事のワシントン・ポーの元に驚くべき情報がもたらされる。
6年前発生した事件で実の父に殺されたとみなされていたエリザベス・キートンを名乗る憔悴しきった女性がカンブリア州の田舎の小さな図書館に現れたのだ。そこは交番さえも撤去され、月に一度だけその図書館内に警察官のデスクが置かれ、いわば村の苦情処理係の役割を果たしているのだ。
6年前、当時18歳のエリザベス・キートンが行方不明になり、その父親で英国一の天才シェフでありミシュランの三つ星レストラン《バラス&スロー》を経営する、ジャレド・キートン自慢の、政財界人ばかりか王室までが予約を取るそのレストランの厨房で、大量のエリザベスの血痕が発見されたことから、ポーはジャレドが真性のサイコパスであることを見抜き、死体のない犯罪ながら起訴し、ジャレドは裁判において一言の弁解もせず終身刑が確定し服役中であった。
図書館に現れた女性はやつれはてているもののエリザベスによく似ており、何より彼女から採取された血液とDNAが現場に残されたエリザベスのものと一致した。
それを受け再審請求が認められ、ジャレドが釈放されるのは時間の問題であった。
しかしポーは自分を信じ、ジャレドが狡猾なサイコパスであることも疑わなかった。
前作に引き続き、地元の捜査を担当するカンブリア州警察との軋轢と妨害、そして自らを天才と誇るジャレド双方からの奸計に晒されながら、ポーはチームを組む元部下で現在では上司のフリン警部と、成長著しい天才分析官ティリー・ブラッドショーの助けを借り、さらに法医学医でこれも天才的病理学者のエステル・ドイルや監察医のフリック・ジェイクマンの協力も得て独自で型破りの操作を続けて行く。
ポーに勝ち目はあるのか?
ワシントン・ポーシリーズの第2弾‼️
今回もポーとティリーの抜群のチームワークが読みどころだが、ポーの隣人であるトマス・ヒュームや、上司であるフリン警部、そしてポー自身のプライバシーに深く踏み込んでおり、中でも美貌の天才法医学者エステル・ドイルの奇矯ぶりにも目を奪われる。
本作にはシェフのジャレド・キートン、分析官のティリー・ブラッドショー、そしてこのエステル・ドイルと、その分野の天才が三人も揃っており壮観だが、現実味に薄い。
単純だがよく練られたトリックとプロットで相変わらず休む間を与えなかった。
続く第3作目の「キュレーターの殺人」も手許に用意してあるので楽しみは尽きない。