傷だらけのカミーユ | われは河の子

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傷だらけのカミーユ ピエール・ルメートル

 2012年 文春文庫 2016年


 パリ、シャンゼリゼ近くの19世紀に作られたショッピングアーケードで、10時を回ったばかりという時間にアンヌ・フォレスティエはたまたま入った公衆トイレで強盗と鉢合わせして、ショットガンの銃尻で顔を何度も殴打され、倒れた所を今度は数回にわたって蹴られ、意識を失いかけたかけたが、なんとか蘇生して助けを求めようとトイレから外のアーケードに出たところで宝石店を襲って車で逃亡しようとしていた犯人たちの乗る車と行き合って、今度は銃で撃たれる。しかし弾は外れアーケードのウインドウガラスを木っ端微塵にし、その破片が倒れたアンヌの身体に降り注ぐ。

 アンヌ・フォレスティエは パリ警視庁犯罪捜査部のカミーユ・ヴェルヴェーレン警部の愛人であり、一連の事件は全て現場の防犯カメラが録画していた。


 病院から急な通報を受けて駆けつけたカミーユは、アンヌが無惨な姿にはなっているものの、生命の危険はないことだけを確認すると、密かに単独でこの事件の捜査に乗り出す。

 明らかに職権濫用であり、上に知れたら全ての警察におけるキャリアを捨てるのと同じことになる。

 しかし焦るカミーユを尻目にアンヌに顔を覚えられたと思った犯人はなんと彼女が担ぎ込まれた病院にまで侵入して彼女の抹殺を計ろうとする。


 かつて愛妻のイレーヌを事件で失い、抜け殻のようになっていたカミーユは再び愛する女性を襲った悲劇に激怒し、自らを見失いながら、孤独な捜査にのめり込む。

 そこではかつてヴェルヴェーエン班として活躍した仲間の姿も無い。唯一富豪の息子のルイだけが、心配しながらもカミーユの味方になろうとするが、彼にも真実を明かす訳には行かない。

 そしてアンヌに更なる犯人の魔の手が迫る。



 「悲しみのイレーヌ」「その女アレックス」に続く、ヴェルヴェーエン3部作の掉尾を飾る作品。デビュー作である「悲しみのイレーヌ」からの構成と恐怖感を煽るメルトール節は冴えに冴える。

 作品の時系列としては「その女アレックス」事件の直後ということになっているが、カミーユの心の中を占めるのはやはり「悲しみのイレーヌ」の事件である。

 ルイは元気だが、かつてのヴェルヴェーエン班の解体も含め、「悲しみのイレーヌ」を読んでおいた方が前後の事情が掴みやすい。

  わずか3日の事件であるが、複数の視線から描かれるストーリー展開とともに、またしてもルメートルの魔術に翻弄された感じであった。