帝王死す エラリイ・クイーン 1952年
ハヤカワ文庫 昭和52年
第二次対戦中の機密島を買取り、私設の陸海空軍を持つベンディゴ帝国は、武器・兵器の製造輸出で、大戦前から南米、中南米諸国の政府転覆活動に肩入れして来て財を成し、やがて世界大戦が勃発すると、ナチスドイツにもソビエトにも兵器わ売り込みその権力を一層強大なものとし、戦後は自由陣営、共産陣営の区別無しに国際情勢を左右するほどの存在になり、商品としての核兵器さえ研究していた。
その帝国の総帥キング・ベンディゴのところに脅迫状が舞い込み、それを恐れたキングの弟エーベル・ベンディゴの依頼を受けて、エラリイとクイーン警視はニューヨークのクイーン家のアパートメントから拉致同様にベンディゴ島に連れ去られる。初めは断固拒否していた親子であったが、ワシントン筋(おそらくは直接大統領からの)電話で、渋々同行することを承諾したのだ。
キング・ベンディゴは屈強な大男で、島には家族として妻のカーラと、弟のジュダ、エーベル、そして多くの衛兵やガードマンに囲まれて暮らしており、各国の大臣や将軍に多額の賄賂を使って寝返らさせ、自らの利益に結びかけるような工作を働いていた。
島はジャングルによってカムフラージュされ、地図上には存在しないことになっていた。
しかも彼は重巡洋艦と軽巡洋艦まで、所有していたのだった。
三男のエーベルはキングを補佐する大臣として辣腕ぶりを発揮していたが、次兄のジュダはブランデーを耽溺する呑んだくれで、芸術家崩れのような男だった。
合衆国大統領より警固な警備体制の中で、キング(その本来の名前はカインだったことが明らかにされる)の元には次々と脅迫状が届き、最終的に「あなたは殺される、木曜日、六月二十一日、正十二時、深夜と日時が指定されるに至った。
エラリイは脅迫状が同じタイプライターでタイプされたこと身体そのタイプライターを突き止め、脅迫状を送っていた人物を突き止める。意外なその人物は、いかにも自分がキングを暗殺すると告げ、深夜に銃殺することを予告する。
当夜、まるで銀行の金庫のような機密室の中で仕事をしているキングと心配のあまり一緒にいると言って聞かないカーラを残して部屋は完全に閉ざされる。もちろんその前にありとあらゆる場所が検査され武器も暗殺装置もないことが確認されるし、キングもカーラも別扱いされなかった。
エラリイはぶ厚いコンクリートの壁と廊下を隔てて機密室と向かいあった部屋の中で容疑者の様子を見守っていた。その人物はこれで殺すのだと言って小さなワルサーを出して見せたが、エラリイはその銃から弾倉と弾薬を取り出して、空になった銃を返した。
真夜中着前、その人物は空のはずのワルサーを向かいの壁に向かって持ち上げ、狙いを定めると12時と同時に引き金を引いた。当然カチリという引き金を引いた音がするだけで銃声も起こらなかったし、弾丸が発射されることもなかった。
しかし「キングは死んだ」と告げられ困惑したエラリイは外の廊下で見張っていたクイーン警視とともに機密室の鍵を開けて入ってみると、そこには撃たれたキングがのけぞっており、カーラが寄り添って気を失っていた。
小口径の銃弾は幸い心臓をわずかに外れ、キングは重症を負う物の一命は取り留める。
エラリイはベンディゴ3兄弟がライツヴィルの生まれと知って、彼の魂の故郷でもある懐かしのライツヴィルを訪れ調査を始める。
本格謎解きミステリの巨匠エラリイ・クイーンの異色作。
まるでそれまでの足が地に着いた場面設定とは異なり、あまりにも壮大で現実離れしたベンディゴ帝国が舞台なので、作り物感は否めないが、
ヒロシマ・ナガサキ後の世界であり、朝鮮戦争最中の世相を巧みに取り入れている。
なりよりクイーンには珍しい、密室と不可能犯罪をテーマにしており、まるでカーター,ディクスンのヘンリー・メルヴィル卿物のようだった。
大掛かりなステージマジックほど、トリックを明かされると単純なことと同じで、その辺は数々のヒット作を世に送り出して来たクイーンの手法なので、安心して解決編を読むことが出来たが、物語りの結末もいつもとは違うパターンであった。
サクサクと読めるのも好印象である。
