ハートの4 エラリー・クイーン 1938年
創元推理文庫 1959年
映画の都ハリウッドに脚本家として招かれたものの手違いで6週間も放って置かれて頭に来たエラリーは、しかしついにマグダ映画撮影所副社長で製作者のジェークス・ブッチャーと意気投合して、彼の元で映画の仕事に就く契約を結ぶ。同じく脚本家のルー・バルコムと組んで、彼を補佐する役割だが、アイディアマンだが、生来のアル中で博打打ちのルーのみならず、大戦で片目を失ったパイロットで宣伝担当のサム・ヴィクスなど一癖も二癖もある連中が揃っており、撮影所の極め付けは、ニューヨーク・ブロードウェイの舞台の華として絢爛たる成功を収めてから映画でも大成功を収めた伊達男ジョン(ジャック)・ロイルと、彼と一度は婚約したものの破談して以来不倶戴天の敵となったやはり銀幕の大女優ブライズ・スチュアートの確執であり、それは2人の子供たちであり、やはり新進気鋭の役者であるタイラー(タイ)・ロイルとボニータ(ボニー)・スチュアートの争いに引き継がれていた。
往年の大スターであるジョンとブライズの伝記映画を2人の主演にして製作することを画策したブッチャーら製作陣は、群衆恐怖症のため家から一歩も出られないのに、独自に築き上げた情報網でハリウッドきっての地獄耳である記者のポーラ・パリスをエラリーに訪問させるが、
そこでなんと長年にわたって抗争を繰り広げていたジョンとブライズが子どもたちの反対もよそに和解し、結婚することを聞き出すとともに、女嫌いで知られるエラリーがポーラに恋をしてしまう。
2人の結婚が避けられないことを知ったブッチャーらは、逆にハリウッド式に劇的に演出し、飛行場で2人に式を上げさせた後、飛行機で新婚旅行に向かうという趣向で、お祭り騒ぎで2人を送り出す。
しかし、2人を乗せた操縦士は、格納庫で銃でホールドアップされた偽物に取って替わられていて、飛行機が、山中で着陸しているのを発見された時にはブライズもジョンも毒殺されていた。
ブライズにはしばらく前から脅迫とも思われるトランプのカードが送られて来ていたが、これは女優の死後も送られ、その宛名は娘のボニーに変わる。
やがてボニーとタイにも恋情が芽生え、2人は両親を演じることで映画は再び製作続行の目処が着く。
エラリーは、2人にもう一度両親と同じことをさせることで犯人を誘き出す計画を立てる。
前作「悪魔の報酬」の続編に当たるハリウッド物の第二作目で、前作同様ロス市警のグリッキ警部が捜査に当たる。
華々しい映画の都ハリウッドを舞台としているだけに、クイーン諸作中最も取り留めのないバタバタ劇が繰り広げられ、評価はあまり高くないが、私は個人的には好きな作品。
前半のドタバタ喜劇を思わせる展開から中盤のラブストーリー、そしてまたお祭り騒ぎの結婚式と、その後の悲劇というクルクル変わるテンポはまさに映画的であるといえよう。
近年新訳が同じ創元推理文庫から出ているが、この1959年初版の文庫は時代のせいかいかにも訳が古く、最初ベヴァリ丘というのが何かよくわからなかったが、考えてみたらビバリーヒルズであった。また殺人に使われた毒薬がモルヒネと、アリョア酸ソーダと書かれているが、これは亜硫酸ナトリウムのことであろう。
また直接本文には関係ないが、シカゴで起こった聖バレンタインの惨劇の首謀者をアル・カポーニとしている。今なら誰でもアル・カポネとして知る人物である。
もうひとつ気になるのがエラリーの恋人?ポーラ・パリスの存在である。
そもそもエラリーは、そのデビュー作「ローマ帽子の秘密」で、紹介者のマック判事により、その時点で既に彼は引退して妻と息子とともにイタリアに移住している旨を明言されているだが、活躍が進むにつれて最初の設定は忘れられ,いつまでも独身生活を謳歌するが、エラリーファンとしては彼のプライバシーを解き明かしたい。
シリーズには他に秘書のニッキー・ポーターが何度か当時するが、彼女は作品によってその出自が曖昧だったり、髪の色が違ったりするが、概ねコケティッシュな美人ではあるが、興味心旺盛で詮索好きな少しオツムの弱い女性として描かれているのでクイーン夫人というイメージではない。
だが、このポーラは頭が良く、輝くような美しさで、クイーン然としている。と描写されている。まさにエラリー夫人には相応しいと思うが、その恋愛の行方も気になる。
欠点は構成同様結末も盛り込み過ぎて、一つの事件の解決としてはスッキリとしない点である。もちろん一つ一つの問題や解決としては文句はないのだが、スタイルがお洒落じゃないというべきか?