1947年 ハヤカワミステリ文庫 1983年
イギリス陸軍のドナルド・ホールデン少佐は、戦時中情報部の特殊任務に就いていたため公的身分は戦死扱いとされたままで、ようやく復員したのは戦後1年3ヶ月も経ってからであった。
ホールデンは、プロポーズもせずに出征したきりで、7年も会っていない恋人シーリアに会うために故郷に戻ったが、戦前にシーリアの美貌の姉マーゴレットと結婚した彼の親友ソーリィから、
マーゴレットが半年以上前に脳出血で死に、シーリアもそのショックで精神に異常を来したというショッキングな話を打ち明けられる。
しかし、やがてシーリアと再会したものの、シーリアは、姉は夫から虐待を受けた末に毒をあおって自殺したと述べた。
食い違う供述。たびたび幽霊を目撃したと語るシーリアの心はやはり病んでいるのだろうか?
やがてこの混迷した謎に名探偵フェル博士が挑む。
しかし、7ヶ月も前に厳重に封印した納骨所の扉を開けてみると、マーゴレットの棺や他の古い時代の棺が投げ出されたように位置を変え、しかも床に撒かれた白砂には何人の足跡すら無かった。
枕元の書架に並んでいたので昔読んだはずだが、その時は全く印象に残らなかったが、再読してみると、これはカーの立派な佳品であると思った。
シリーズ探偵のフェル博士ものでありながら、カーお得意のドタバタ喜劇要素が皆無なためにあまり人口に膾炙していないが、
一つの死を巡る複数の恋愛といったロマンス志向や、幽霊や、英国史上有名な死刑になった殺人犯の仮面を着用して行われた殺人ゲーム、占いと水晶玉、納骨所でのポルターガイスト現象といったオカルティズムなどカーの面目躍如といったところだ。そして散りばめられた伏線の見事さ!
中盤までで語られたさりげないエピソードの一つ一つが犯人断定の要素となっている。
納骨所の謎は、とびきりの不可能状況を作りあげていて読む者を驚かす。
このトリックそのものはブラタモリ的雑学というか豆知識の域を出ず、へぇ?と感心するだけだが、これが同じカーが1937年にノンシリーズで発表した「火刑法廷」での納骨所からの遺体消失のように考え抜かれたトリックを考案していたとしたら、カーの代表作として万人に認められたのではないかと思う。
ただ、フェル博士が何か曰くありげな発言する間際に、必ず誰かが現れたり、横から発言するパターンの多さにはイライラさせられた。
なにより、ミステリの中であまり語られる事のない脳出血による死!私にとっては人ごとではない状況もあって引き込まれるように読みました。