新潮文庫 昭和34年。
霧深きロンドンの街に跳梁跋扈する帽子蒐集狂。それは単なる愉快犯の仕業か?そんな中エドガー・アラン・ポーの、未発表原稿の盗難騒動が裏ストーリーとして展開する。
さらに幾多の血塗られた伝説に満ちたロンドン塔の逆賊門の下で、胸を鉄矢で貫かれた男の死体が発見される。それは紙上で独占的に帽子蒐集狂を追っていた若き新聞記者で、頭にはゴルフ服姿にはそぐわないトップハット(シルクハット)が被せられてあった。
江戸川乱歩と横溝正史が激賞した事で、かつてはカーの代表作とみなされ、各社の文庫に取り入れられました。
私の持っている本は高校生の時に買った昭和51年の第6刷だが、その後約40年、9回の引越しを経て。なお枕頭に並んでいます。
なぜ、当時の定番だった創元推理文庫版を買わなかったかというと、ひとえにこの新潮版の表紙の池田満寿夫氏のイラストのカッコ良さに一目惚れしたからです。
乱歩は、黄金期ミステリーのベストテンにも選んでいますが、現在の評価はそれほど高くはありません。
これが二度目の登場となる名探偵フェル博士は、証人の取り調べの際に、ポケットから走り回るおもちゃのネズミをテーブルの上に落とすなどの相変わらずのはちゃめちゃぶりを発揮したり、血塗られた歴史に彩られたロンドン塔が、オカルティズムを感じさせたりと、カー独特の魅力は、盛り込まれていますが、特別異彩を放つわけでもないトリックと、どんでん返しはあるものの、やや尻すぼみの結末などと相まって、後年の「ユダの窓」や「三つの棺」「火刑法廷」ほどの完成度には欠けていると思いました。
巻頭にはロンドン塔の平面見取り図も添えれていますが、これがまたわかりにくい代物で、かえってストレスが増大しました。
原題は、T he Mad H a t t er Mysteryで、不思議の国のアリスに登場する「いかれ帽子屋」に由来するのですが、これを「帽子蒐集(収集)狂事件」と、初訳した高木彬光の功績は大きいと思います。
