荻窪風土記 井伏鱒二 新潮文庫
東京都内都下も、仕事のため車でぐるぐる走り回ったことはありますが、私にとってはやはり関西ほど馴染みがありません。
しかし荻窪は、最初の受験の時に1週間ほど滞在したことがあり、東京の中ではちょっと懐かしい地名です。
作家の井伏鱒二が、昭和2年にこの地に移り住んでから、昭和史をひもとくように身辺を語った随筆です。
昭和2年といえば、前掲のサイコロキャラメルが発売された年ですね。
引っ越し前に起こった関東大震災の模様から、満州事変、2.26事件、ゾルゲ事件、太平洋戦争勃発などの社会のうねりの中で、多くの文学仲間との日常交流がほのぼのと描かれていきます。
『翌日、東京駅へ見送りに行くと、地平の勤めることになった大学の庶務課の老人が見送りの先頭に立って、手を振りながら「邪はそれ正に勝ち難く……」という軍歌を歌った。日露戦争の時にできた軍歌だろう。ほかの者は誰も一緒に歌えなくて、その人だけ初めから仕舞いまで歌った。』
これは昭和13年ころ召集を受けた弟子の中村地平の出征風景を描いた部分ですが、
この軍歌は「敵は幾万」ですよね。
私でも歌えますけど。
当時の文士は浮世ずれしていたのでしょうか?