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1942年1月 ベルリン・ヴァンゼー湖畔の邸宅で

 ヒトラーのナチス高官たちが、

   ヨーロッパユダヤ人1100万人を  

    どのように処理(虐殺)するかを決定した

     「ユダヤ人問題の最終解決」会議を

       再現した映画です。

 

別名「ヴァンゼー会議」とも言われます。

 

 

 

この映画は、戦後、連合国に押収された

 詳細かつ完全な会議録を元に映画化された。 

 

 (ドイツ人の生真面目な、記録魔的な気質の

    結果かもしれません。

 

  その点、日本人は、正確な記録を嫌い

    曖昧かつオブラードに包んで

      発言者責任を問われないように

        粉飾するのが得意なようです。

 

  森友事件、裏金問題などをみても

    明らかです。

 

  日本人は、歴史にたいする

     認知が低いのかもしれません)

 

・ユダヤ人がドイツ人の富を奪い、戦争を引き起こし

  世界の富を支配しているから、

    ユダヤ人を排斥しなければならいという

      反ユダヤ主義が、ヒトラーをはじめ

       ナチス支持者の理念であった。

 

  (多くのドイツ人も、反ユダヤ主義に

     共感、同調していた)

     

・ナチスは、占領地のユダヤ人を

 ゲットーへ強制隔離し、財産、家などを

   没収し、その富をドイツ国民にも

     分配した。

 

  (略奪した家に住み、衣類等を得ることができた)

 

・この映画でも語られますが、

  ナチス・ポーランド管理官の悩みは

   約2km×2km以下の四方の街

    ワルシャワ・ゲットーに、

     45万人のユダヤ人を隔離したために

      多くはなくても、食糧配給などの

       行政管理に手を焼いていた。

 

  ゆえに、この会議で、ゲットーの負担軽減を

   強く望む発言を繰り返した。

 

・ウクライナ、ベラルーシを占領したナチスは

  ゲットーを作るのではなく、

    銃殺による虐殺を選択した。

 

  ウクライナ・キーウのバビ・ヤール渓谷に

    ユダヤ人10万人が銃殺され、

      渓谷に埋められた。

 

・第2次大戦開始から、この会議までに

  東ヨーロッパ、ロシア中心に

     100万人が虐殺されていた。

 

・この会議の前には、ユダヤ人を外国へ

   移住させてはいた(約50万人)が、

     引き取る国が無くなった。

 

・アフリカ・マダガスカル島へユダヤ人を

  移住させる計画があったが、

   イギリスに制海権があったため

     不可能となった。

 

つまり、ヨーロッパ占領地のユダヤ人

 1100万人をどうするか「ユダヤ人問題」が

   ナチスの大問題となってきた。

 

銃弾で撃ち殺すには、莫大な銃弾がいる。

 

女、子供、老人を銃殺するドイツの若者が、

  精神的ダメージ・PTSDをもってしまう。

 

この会議は、ユダヤ人を、いかに効率的に

 虐殺(ホロコースト)し、ヨーロッパから

  ユダヤ人を絶滅するための方法、

   承認、協力を得るために、

     ナチス高官たちが集まった。

 

ここで一つ重要なのは、ヒトラーが、

  今会議のようなユダヤ人絶滅を

     命令したかどうかです。

 

実は、ヒトラーの絶滅命令文書は

  発見されていません。

 

ヒトラーが絶滅命令をしていない

   という説があります。

 

この映画でよく語られているように

 ヒトラーが、ユダヤ人絶滅を言っていた

   というのが根拠?になっているのです。

 

つまり、この会議の参加者たちは

 ヒトラーに「忖度」して、絶滅計画を立て

  実行したというのが、史実かもしれません。

 

 (この映画で分かりますが

   ヒトラー無関係に、参加者たちは

     ゴリゴリの反ユダヤ主義者

        でした)

 

この会議を招集したのは国家元帥ゲーリングで

 会議を実質運営したのは

  ナチス親衛隊長官ヒムラーの

   部下だったラインハルト・ハイドリヒでした。

 

 

ラインハルトは、チェコで、公開処刑を含む

 反ナチス運動への大弾圧をします。

 

逮捕、虐殺などで「プラハの虐殺者」と言われます。

 

このヴァンゼー会議後の1942年5月

  チャーチルの命令による特殊部隊によって

    暗殺されます。

 

  (この暗殺の報復で、ナチスは

     約4500人を虐殺します。

 

   この暗殺については

       いくつか映画化されてます。

 

   なお、この報復の過酷さに

    チャーチルは、ナチス要人暗殺を

      しなくなりました)

 

このヴァンゼー会議後の、アウシュビッツなどの

  強制収容所の虐殺について

    上官のヒムラーは「ラインハルト作戦」と

      名付け、実行していきます。

    

 

この会議で、ユダヤ人虐殺が決定されたことは

  知ってはいましたが、具体的に

    何が議論されたかは

      この映画で初めて知り、

        驚きました。

 

例えば、国籍問題です。

  

  ユダヤ人は、各国の国籍を持っています。

   

  その国籍を無視して、虐殺できるのか?

    国際問題になるのではないか?

 

  結論、占領地の傀儡政権?が認めれば

     可能である。

 

混血問題です。

 

  ユダヤ人とドイツ人のハーフ1/2、1/4の

    ドイツ国民です。

 

  すでにドイツ軍隊、技術者にたくさんいる。

 

  少しでもユダヤ人の血が混じっていたら

    全員、収容所、虐殺するのか?

 

  ユダヤ混血ドイツ国民を

   すべて収容所送りにするのは

    ドイツ国民の理解が得られない。

 

  では、どうするか?

 

   意外な方法でクリヤーします!

 

   映画を見て下さい!

 

   人間の悪智恵に慄きます!

 

虐殺方法です。

 

  占領地のウクライナ、ベラルーシでは

   銃殺で虐殺していた。

 

  女、子供、老人の虐殺実行部隊の兵士に

    PTSDが起きる

 

  軍事物資の銃弾を大量に使えない。

 

  そこで、実験的に始まっていた

    毒ガスです。

 

  銃殺よりも安く、効率的である。

 

  収容所を作り、分業制で毒ガス虐殺すれば

    兵士の心理低負担は少なくなる。

 

  ガス室に入れる役、毒ガスを注入する役と

    分業するのです。

 

  そして、遺体処理は、

    収容所内のユダヤ人にさせ

      ドイツ兵士は直接タッチしない。

 

  遺体処理役のユダヤ人もいずれ虐殺

    最終処理をする。

 

ユダヤ人輸送問題

 

  全ヨーロッパユダヤ人を収容所へ

    輸送するのは、軍需物資を運んだ

      戦地から戻る空の輸送列車を使う。

 

これらの課題を、軍人、官僚たちが

  議論をしながら、固めていきます。

 

この90分の議論で、大筋が決まり

  後の「ラインハルト作戦」が

    実行されます。

 

この会議の裏の主役は

   アイヒマンです。

 

 

アイヒマンがこれほど、この会議で

  裏方として活躍していたのには驚愕しました。

 

裏方の実務屋として、とても優秀だったのが

  この映画でもよく分かります。

 

このヴァンゼー会議後の、2回目の

 各省庁との実務者会議を取り仕切ったのは

   アイヒマンでした。

 

ドイツ降伏後、アルゼンチンへ逃亡し、

 1960年、イスラエルの情報組織に逮捕され

   エルサレムの裁判で死刑、執行されます。

 

  (身分を偽っていたアイヒマンを

    最終確認できたのは、

      結婚記念日に、妻への花束を

        買ったのが決定打になりました。

 

    なお、アイヒマンに関しては

      いくつも映画化されているので

        ご覧ください)

 

アイヒマンの言葉

 

   「ユダヤ人虐殺は大変遺憾に思う」

 

   「私は命令されたことをしただけ」

 

   「百人の死は天災だが、

       一万人の死は統計にすぎない。」

 

アイヒマンに関して、ハンナ・アーレントは

  「凡庸なる悪」といい

    ユダヤ人虐殺実行者は、

     悪魔的なものではなく

      思考、判断を停止し、

       仕事を忠実にしただけの

        人間である。

 

  (有名な心理学実験で

     「アイヒマン実験」があります)

 

地味な?内容の映画です。

 

アクションも何もなく、淡々と、

  議事進行を映像化しています。

 

たぶん、実際の会議が行われた邸宅、

    食堂で撮影したはずです(間違いかも)

 

軍服、ヘアースタイル、車、食器など、

  時代考証も完璧です。

 

  (良い映画かどうかは、

        時代考証に比例します)

 

過剰な演技もなく、当たり前の

  自然体で演じられるので

     逆に、人間の恐ろしさが

       迫ってきます。

 

ユダヤ人問題を解決するために

 知恵を絞る官僚組織の怖さ、

   冷徹さ、合理性を教えてくれます。

 

登場人物が多いので、

 最初は、組織上の立場や人間関係に

   悩みますが、

    映画が進行していくに従って

      分かってきます。

 

この会議に参加者は

  ユダヤ人を同じ人間だとは

    思っていません。

 

単なるお荷物としか考えていないのが

  よく分かります。

 

ゆえに、事務的に処理する会議として

 成立したのです。

 

「ユダヤ人問題」の最終解決のために

  それぞれの立場から、ベストな方法を

    見出し、実現を図ろうとしたのが

      よく分かります。

 

どこにでもある会議です。

 

議題が、「ユダヤ人絶滅」だけのことでした。

 

「凡庸なる悪」そのものの映画です。

 

ユダヤ人の善悪など考えないのです。

 

「ユダヤ人は悪」で、停止しているのです。

 

と、ここまで書いて、気が付いたのは

  まさしく「ガザ問題」です。

 

イスラエルの「ガザ」は

  「パレスチナ問題の最終解決」なのです。

 

二度と、イスラエルに歯向かえないようにする

  パレスチナ・ハマスの絶滅です。

 

この映画は、現在の

 「イスラエル・ネタニヤフ首相のための会議」

   そのものです。

 

イスラエル会議参加者全員は、この映画のように

  パレスチナ人・ハマスに

    何の感情、同情もないかもしれません。

 

「ガザ戦争」は、この映画の公開後に

  始まりました。

 

この映画を観たら、

 ネタニヤフ首相をはじめ

  イスラエル・ユダヤ人は

    どのような感想を持つのだろうか?

 

「歴史は繰り返される」と言われますが、

  同じではないけれど

    「歴史は、少し変化して繰り返される」

      と言えるようです。

 

歴史の皮肉です。

 

是非、ご覧ください。

 

案外、歴史的な政治決定、政策は

  この映画のように、

    事務的な作業なのかもしれません。

 

歴史的意味付けは、後の後付けなのでしょう。

 

最後に、ドイツ降伏後、

  この映画のヴァンゼー会議の参加者全員は

    ユダヤ人絶滅を決定した会議ではないと

      否定しています。

 

女性秘書の記録を、アイヒマンがまとめ、

  レポートを作成し、残りました。

 

アイヒマンは、自分の仕事の功績として

  残したかったのでしょう。

 

この記録が残らなかったら

  すべてヒットラーのせいにできたはずです。

 

この映画、会議のように

  当時のドイツには、

     ヒトラーが、たくさんいたのです。

 

映画専門チャンネル

   ムービープラスで観ました。