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アウシュビッツ所長一家の、平和な日常に潜む

  人間社会の闇を、淡々と美しく描き、

     人間の心の奥に潜む

       みて見ぬふりの無関心を装って

          冷酷に生きる姿を描く。

 

 

この映画の主役は

  アウシュビッツ初代所長

    ルドルフ・フェルディナント・ヘス一家です。

 

  (1941年、イギリスへ亡命?した

    ナチス創立メンバーの

      ルドルフ・ヘスとは別人で、

        血縁もありません。

 

    二人の「ヘス」の、綴りが違います

 

  区別するために、この映画の主人公を

    「ヘース」と表現することが多いです)

 

この映画の主人公ヘスは、

 ナチ入党後、リンチ殺人事件に

  関与したとして、1924~28年まで

    刑務所に入ります。

 

  (その体験が、後のアウシュビッツ収容所の

     運営に生かされたと言われています)

 

 

  1940年 アウシュヴィッツ収容所が建設され

        初代所長となります。

 

  1941年 ユダヤ人絶滅計画により

        毒ガス虐殺を始める。

 

  1943年 恣意的な囚人殺人、汚職の嫌疑などの

        管理責任を問われ、全収容所の管理部長

 

  1946年 逃亡潜伏していたが、イギリス軍に逮捕

 

  1947年 アアウシュビッツで絞首刑

 

 

  ヘスの処刑台は、保存されています。

 

この映画は、1941~1943年頃までの

   ヘス一家の日常を描いています。

 

ナチスがユダヤ人絶滅をしたのは、

  人種差別のありますが、

    この映画で描かれているように、

      ユダヤ人を虐殺して、その富を

        略奪するためでもありました。

 

  (ナチス党員や貧しいドイツ国民が

     ユダヤの富を手に入れて、

       優雅に、贅沢に暮らすためです。

 

  なお、ロシアの富を得て、ドイツ国民に

    分配しようとしたのは、失敗しますが・・・)

 

この映画は、収容所の壁一つ隔たれた、

      天国と地獄を描いています。

 

 (映画ほどの、隣りあわせではなかったようです)

 

この映画は、ヘス一家の家族や、

  ヘス家で働いていた使用人、ユダヤ人などの

    証言を積み重ねて映画化しました。

 

 

娘・インゲブリギット・へス

 

 「子供の頃の思い出といえば、我が家の近くにあった

       澄みきったソラ川です。

  川岸でかえるを観察したり、

    兄や姉たちと一緒に戯れたりと

      楽しい時間を過ごしました。

  父が休みの時は家族揃って川沿いで、

     乗馬やピクニックしたことも心に残る思い出です」

 

 

映画では、

  プールの木の滑り台も再現されていました。

 

  「ソラ川が一気に黒くなりました。

     強制収容所で虐殺され、

       火葬されたユダヤ人の灰を

            川に流したからです」

 

この映画は、これらの証言、エピソードを、

  忠実に再現しながら、人間の二面性や

    正邪善悪の境界の曖昧さを描いています。

 

家族愛のための、「必要悪」のありさまです。

 

ユダヤ人虐殺が始まっていることは

  ドイツ国民には、暗黙の了解でした。

 

知ってはいるが、口に憚ることでした。

 

  (数少ない収容所脱走者、心あるドイツ人、

    収容所関係者、収容所で働いていたドイツや

        ポーランド人など一般労働者、

   レジスタンスなどから、情報は洩れました)

 

映画の中で、ヘス家にやってきた母親が

  一日で、田舎の家へ戻るのは、

    一日に、何千人?もの死体を焼却していたので

      収容所の周りには、その悪臭が

         風にのって漂っていたためです。

 

ユダヤ人の焼却灰で、美しい花を育て、

          ガーデニングをします。

 

使用人、情婦はすべて、選ばれたユダヤ人です。

 

  (この時代、使用人を使える身分というのは

     上流階級の証明でもありました。

 

  ゆえに、ヘスの妻は、その権力に

       酔いしれています)

 

美しい田園風景、豪華な洗練された家具調度品、

  近代化されたモダン建築、ファッション、髪型など

    ナチ文化の壮麗さを再現した

      緻密な時代考証も

        この映画の魅力です。

 

  (私のようなミリオタの世界では

     ドイツ軍服が、一番人気です・・・トホホ)

 

淡々と、「表面的な」平和なヘス一家のエピソードを

     積み重ねて描いています。

 

見方によっては、悪趣味なホームドラマです。

 

このヘス一家の繁栄の、陰を為しているのが

  塀の向こう側に見える収容所の建物と

    焼却場から出る煙です。

 

そして、この映画の最大の表現である

  収容所内で繰り広げられる、

     虐待と虐殺の音です。

 

美しい映像の対比が、残虐極まりない音源です。

 

  (悲鳴、銃声、リンチ、運搬などの音です)

 

  (なお、実際のヘス家には、離れた

     収容所内の音は聞こえなかったはずです

 

   でも、銃声は聞こえたと思いますが・・・)

 

この映画は、音と煙突、建物などで、

   収容所の残虐性を

      表現するという大胆な演出です。

 

観客に、「何の音か?」を想像させることで

  収容所の恐ろしさを実感させようとしています。

 

上手い演出だと思いました。

 

ナチへのレジスタンスを

  幻想的なネガ画面にして、

     明るいヘス一家への

       魔女的な企みに表現しているのも

         演出の妙技です。

 

  (ユダヤ人の作業場に

    リンゴを土壁に埋めたり、

     ジャガイモを転がしたり、

       拾ったユダヤ人の楽譜は

         実際にあったエピソードだそうです)

 

ヘスの妻役を演じたドイツ人の

  ザンドラ・ヒュラーは、

    ナチス関係の役は絶対に演じないと

      決めていたのですが、

        監督の説得に応じて

          出演しました。

 

 

監督ジョナサン・クレイザーは

 落ち着いた抑えたドキュメンタリのような演出で

   日常に潜む冷酷さを表現していました。

 

 

真っ黒な長いオープニングシーンを

  不気味な音楽から、長閑な森の自然音へと

    導くのは、観客を1942年頃の

      アウシュビッツへ導くための演出です。

 

  (妻  「長すぎるわ・・・」)

 

この映画の一番の謎は、

  ヘスがラインハルト作戦?会議で

    ユダヤ人絶滅を加速させた会議の後

      階段で嘔吐するシーンでした。

 

ヘスは、逮捕後の手記には

 

  「世人は冷然として私の中に血に飢えた獣、

    残虐なサディスト、大量虐殺者を見ようと

      するだろう。

    大衆にとってアウシュヴィッツ司令官は

     そのような者としてしか想像されないからだ。

    大衆は決して理解しないだろう。

      その男もまた、心を持つ一人の人間だった

        ということを。

     彼もまた悪人ではなかったということを」

 

  (ヘスの子供たちは、子煩悩な、家族思いの

       いい父親だったと言っています)

 

また、ユダヤ人虐殺を、

  「私はナチス帝国の

     虐殺機械の歯車でしかなかった」

  

  つまり「命令された仕事をしたまでだ」と

           言っています。

   

   (アイヒマンと同じ考え方です。

 

   また、妻から転勤になることを

     非難されるという

       サラリーマンの悲哀も

         描かれます。)

 

ラストシーンでは、ヘスの嘔吐跡を

  ナチス高官が、何も気にせず

   踏みながら階段を降りていきます。

 

監督は、イギリス人ゆえに

  ナチスをより客観的?に

     描こうと、できたのかもしれません。

 

悪人も善人も、さほど違いはないという

  ことを言いたかったのかもしれません。

 

私はこの映画で、一番恐怖を感じたのは

  焼却炉、ガス室などを掃除するシーンでした。

 

 (小心者の私は、怖くて掃除なんかできません。

 

  もしポーランド旅行しても、

    収容所へ行く勇気は絶対にありません。

 

  幼い頃、ドキュメンタリ映画「夜と霧」

    だったかを観て、トラウマ?が

      残っていますので・・・嗚呼)

 

なぜか、残っているはずのヘス処刑台を

  シーンに入れなかったのは、

    単純な解釈を、監督は望まなかった

        のだと思いました。

 

美しい画面の裏にある、人間の冷酷さを

  描いた映画です。

 

良い映画ですが、映画慣れしていなと

  観るのは苦痛かもしれません。

 

 (アニメ、アクション映画ばかり観ている人には

    退屈かもしれません。

 

また、私のようなミリオタ、戦争マニア的な

  ナチス知識が無いと、エピソードの怖さを

     実感できないかもしれません。

 

ナチスの影響は、今でもヨーロッパ西洋には

  残っています。

 

そして、ナチス史も、常識として、実感として

  日本人以上に、ヨーロッパ人にはあります。

 

ナチスが身近な?西洋人には

   この映画が訴えている意味を

      強く感じることができるはずです。

 

日本人には、真の理解が難しかもしれません。

 

重い、暗い、気が滅入る映画です。

 

ヨーロッパが抱える黒歴史を見詰めた映画です。

 

日本では制作できない種類の映画です。

 

この映画を製作できる民主的文化を持つ

  ヨーロッパ映画の強さを羨みます。

 

   (表現の自由があるんだよなあ・・・)

 

妻はこの映画を観た感想は・・・

 

妻  「ユダヤ人を絶滅させなかったから

      ガザが起きたのよ」

 

  (妻のこの映画の評価は、良くなかったです・・・)

 

身も蓋もない意見ですが、

  イスラエルを思うと仕方がないかもしれません。

 

被害者?であったユダヤ人が

  加害者になってしまったガザです。

 

この映画は、皮肉な運命を背負ってしまった映画です。

 

最後に、収容所を開放した連合軍は

  収容所に放置されていたユダヤ人の

    虐殺死体の埋葬を

     収容所近くに住む老若男女の市民に

        させました。

 

  「見て見ぬふり」を許さなかったのです。


 観ておくべき映画です。

 

現代史、ナチスを知らない日本人は

  特に観るべきです。

 

ナチスに限らず、ウクライナ、ミャンマー

  ガザでは、日常的な?出来事です。

 

日本人も、中国、アジア各地で

  似たようなことをしてましたから・・・。

 

題名の「関心領域」とは

  ユダヤ人が存在しない世界を

    表してると思います。

 

まさしく、ガザの壁を挟んで

  楽しくコンサートを開催していたイスラエルと

    天井のない牢獄で暮らしていたパレスチナ・・・

 

イスラエルにとって、ガザは、

   「関心領域」ではなかったのです。