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6歳で子役デビュー以来、養母のマインドコントロール下で

  一家の稼ぎ頭として働き続けながら、映画界という

    特別な世界で、生き抜いた大女優の自伝です。

 

 

戦前からの映画界の裏話かと思って、読みだしたのですが

  女優のキャリアウーマンとして生きた女性の

     悪戦苦闘した精神の記録でした。

 

子役で忙しく、小学校へほとんど行くことができなかったのですが

  映画界という大人社会の現実逃避と、

    修学できなかったコンプレックスから、

     無頼の読書好きとなった結果か、

      名文の誉れ高い自伝となっています。

 

気風の良い、的確な、鋭いナイフの切り口の文章で

  自身の苦悩と成長だけでなく、

     養母を含むまわりの大人たちの人間性を

       客観的なクールな目で、

         抉り出しています。

 

戦前、戦中、戦後のという昭和の激動と

  自身の人生経験をシンクロさせながら

     日本社会の移り変わりも

        見事に描いています。

 

  (ほんまに、上手い文章です!

 

   筆で人生を切り開こうと思う人は、必読です。

 

    この本を読めば、活字で飯を食べて行くのに

      見切りをつけることができるかもしれません。

 

    高峰秀子の文章は、名文とは何かを

      教えてくれるからです。   

 

    自分の文才の無さを痛感させれます・・・トホホ

 

     私に文才なんてないのですが・・・嗚呼)

 

最近の殺人事件でも、元子役が関わっていました。

 

高峰秀子は、日本最初の名子役スターです。

 

家族を含む、多くの大人たちが、

  高峰秀子の才能と、稼ぎ出すお金に

     群がってきます。

 

映画界という一般社会から隔絶された

  大人社会の中で成長していく子役には

     世間の常識からはかけ離れてしまう

        宿命があります。

 

一見、子役のためであるようにみせながら

  金儲けに利用するためだけの存在となります。

 

高峰秀子も、養母を養うだけの

  ロボットとしての子役時代を続けます。

 

映画に子役出演し続けても、

  大人達に金をむしり取られ

    学校へも行けずに

      貧しさから逃げ出せません。

 

  (歌手の東海林太郎とのエピソードには

     驚かされました。

 

   幼児性愛?の変形としか

             思えませんでした

 

 

養母は、高峰秀子をマインドコントロールで

  すべてを支配します。

 

養母は、生さぬ仲ゆえに、

  美空ひばりの母親以上の

     スーパーステージママとなります。

 

  (養母に依存するしかなかった幼い高峰秀子は、

     泣いて喚き散らされ、怒られながら

        マインドコントロールされます。

 

   養母だけでなく、実母家族も

      秀子の収入で生活します)

 

 

この自伝は、高峰秀子の、養母から

  精神的、経済的に自立できるまでを

    描いた精神史を描いています。

 

一方では、戦前からの

  男尊女卑、家父長制度の中で

    映画界の女性たちが、職業、収入を得て

       社会的に自立してく苦労や偏見に

          挑んでいったかも描いています。

 

その代表として、大女優・田中絹代が語られます。

 

田中絹代は、SNSが無い時代だったのに

  大バッシングを受けて、

     自殺しようとまで、追い詰められたりします。

 

今も昔も、女性が日本社会で、

  一人で生活していくのは、大変です。

 

この自伝は、フェミニズムの本です。

 

高峰秀子が、養母から自立しようとした

  最初のきっかけは、黒澤明への初恋でした。

 

すでに17歳にして、人気女優になっていた

  高峰秀子と、助監督だった黒澤明の恋が

    どうなったかは、是非、本を読んで下さい。

 

  (たぶん、この二人が結婚しても

      上手くいかなかったと思います。

 

   自分の考えをしっかりと持っている二人ゆえに

      衝突が絶えなくなるはずだからです

 

  なお、黒澤明の自伝「蝦蟇の油」には、

    高峰秀子の恋については、確か、

      何も記述が無かったはずです)

 

別れた二人は、映画会社は、意図的に、

  一緒に仕事をさせませんでした。

 

   (敗戦直後に二人は、1本だけ、

     他監督との共作映画で

       仕事をしていますが

        黒澤は、この映画を、

         自分の作品とは認めていません。)

 

二人は、撮影所ですれ違うことも

   あったとは思うのですが、

      秀子は何も書いていません。

 

  (182cmの長身の黒澤は、

          よく目立ったはずです) 

 

高峰秀子との恋は、プライドの高い黒澤には、

   とても苦い体験だったようです。

 

高峰は、初恋の黒澤の活躍を

  最後まで、温かく、見守っていたことが

     この本には描かれています。

 

 

この本では、敗戦後については、

 養母の呪縛から逃れるためのフランス留学

  松山善三との結婚、有名人との交流が描かれます。

 

実父、養父とも、

  強い父親でも、頼りがいのある父親でも

    生活力のある父親でもなく

      存在感の無い父親たちであったために、

  高峰秀子は、ファザコン?となります。

 

そのため、梅原龍三郎、川口松太郎などを

  友人?にするという「爺殺し」を

    自然にしてしまったようです。

 

  (13歳年上の黒澤明に初恋をしたのも

     仕事のできる実力家、頼れる助監督に

        理想の父親像を見出したからだと

            思います)

 

 

高峰秀子は、鼻筋の通った日本人離れした

  西洋人顔の、正統派美人です。

 

  (ハーフかと思いましたが、純粋の日本人です。

 

   でも、函館出身なので、ひょっとしたら

     白系ロシア人の血が混じっていると

       想像するのは、私の妄想です)

 

私は、何本か、高峰秀子がヒロインとなった

  映画を観ています。

 

ところが、どの作品をみても

  高峰秀子の存在、印象が薄いのです。

 

極端な言い方をすれば、

 作品は憶えているけれど

  高峰秀子を憶えていないのです。

 

女優、作品、監督の関係を、

   思いつくまま、考えてみると

 

  作品>監督  小栗康平「泥の河」

 

  監督>作品  黒澤明「七人の侍」

 

  女優>作品  吉永小百合「キューポラのある町」

 

  作品>女優  高峰秀子の出演作

 

  女優>監督  佐久間良子「五番町夕霧楼」

 

  監督>女優  小津安二郎と原節子

 

の図式となります。

 

また、看板女優といわれる大女優には

  必ず、代名詞的な名作があります。

 

 京マチ子「羅生門」

  田中絹代「愛染かつら」、

   吉永小百合「キューポラのある町」

     佐久間良子「五番町夕霧楼」

   

        (思いつくままですが・・・)

 

高峰秀子は、数多くの名作に出演していながら

  看板女優とはなっていないのです。

 

女優業は、自分の存在感を全面に

  押し出すはずなのに

     高峰秀子は、そっと後ろに

        控えているのです。

 

作品や監督の

   引き立て役に徹しているのです。

 

それも、演技が下手では全くなく

  上手い演技で、作品の基盤を

     しっかりと支えてるのです。

 

ゆえに、数多くの名監督に愛され

  起用されたのです。

 

看板女優をひけらかさずことなく、

  作品を乗っ取らず汚さない、

    監督の意図やテーマを壊さない

      女優としての本来の姿を

         プロ意識を持っているのが

           高峰秀子なのです。

 

美人でありながら、

     美人性を殺した女優です。

 

映画界において、

  稀代の大女優が、高峰秀子です。

 

大女優でありながら、

  映画の歯車となった大女優が

      高峰秀子です。

 

映画作品と監督のために、

  自分を殺して尽くしたのが大女優です。

 

と、ここまで、書いて思ったのは、

  高峰秀子を最も使いたかったのは

     黒澤明だったかもしれません。

 

黒澤明は、高峰秀子と別れさせられた後の

  1945年に、「一番美しく」という

     戦時中の勤労奉仕の女学生を

       主人公にした作品を撮ります。

 

この作品のヒロインに、

  高峰秀子を想定していたのではないかと、

    妄想する私です。

 

 (映画会社側も、高峰秀子の養母も

    「焼け木杭には火が付く」のを

      怖れて、絶対にありえませんが・・・

 

 なお、黒澤明は、「醜聞」で、

   高峰秀子に出演依頼をしたのですが、

     スケジュールが合わないということで

       実現しなかったそうです)

 

黒澤明は、「一番美しく」でヒロインを演じた

    矢口陽子と結婚します。

 

  (矢口が黒澤と結婚した後、

    矢口が撮影所で黒澤のセーターを

      編んでいた時に、

        高峰が近寄ってきて

          編んでいるセーターをじっと見て

       「大きいわねぇ」と言って

          立去ったそうな・・・。

 

    高峰は、黒澤のセータ―を

        編みたかったのでしょう。

 

    それは、矢口への嫉妬でもあるはずです)

 

黒澤明は、高峰秀子については

     何も語っていないはずです。

 

ただ、高峰が主演した「浮雲」を

         黒澤は絶賛しています。

 

  (高峰秀子は、明らかに黒澤明に

    恋をしていましたが

      黒澤明は、恋人とは言わなくても

        気にかかる存在だったのは

          間違いありません。

 

   高峰秀子とのスキャンダルが

     報じられなければ、

        恋は実ったかもしれません。

 

   なお、黒澤と高峰の関係を壊すために

     マスコミにリークしたのは

        平尾プロデューサーだったとか・・・

 

   このプロデューサーは、この本に登場し、

     高峰秀子を翻弄します。

 

   高峰と平尾が男女の仲?だったのか

     判断しかねる表現になっていますが・・・)

 

高峰秀子は、作品と監督の良さを

  引き出す名女優です。

 

そして、名文家です。

 

この本は、女優として働く女性の苦悩、苦闘を

  爽やかに、隠すことなく、

    堂々と思うところを率直に

      記した名文章の本です。

 

是非、お読みください。

 

映画ファンは必読の本です。

 

そして、女性史研究家、フェミニズム研究家も

  必読の本です。